スイスと森林

スイス・フォレスター紹介


rolf


ロルフ・シュトリッカー 氏
(Rolf Stricker)

 スイスはチューリッヒ州の2つの村(ヴィラ村・シュテルネンベルグ村)にて、延べ850haの森林の管理を一手に担っている。
 経営計画の立案から選木、森林所有者との交渉、作業員や機械の発注、製材所との交渉、材木の売却など、その仕事と責任は多岐にわたり、たとえ所有者当人であっても彼の許可なしに樹木を伐採することは違法行為となる。
 エコロジーの思想をいち早く林業に持ち込み、林業経営と環境への貢献の両立に20年以上の長きにわたり取り組み続けている。木材価格が低迷を続ける現在にあっても彼の担当する森林は黒字経営を続けており、地域住民からの信頼もとても厚い。
 同業者たちは敬意を込めて彼を「グリーン・フォレスター」と呼ぶ。


スイスの森・人々・林業

 

今回、森林管理のお手本とさせていただくスイスについて、
人と森林と林業に関する資料や写真をご用意いたしました。
8つのテーマのなかからお好きなものをご覧ください(PDF書類)。

※読み込みに時間が掛かる場合がございます。
 また、スマートフォン・携帯電話等からはご覧いただけない場合がございます。


<当資料はNPO法人 近自然森づくり協会よりご提供いただきました>



 


switzerland




「スイスで出会った森と人々」にあわせて


sato
 株式会社総合農林
 代表取締役社長

 佐藤 浩行 氏





スイスという国

 スイスは、フランス・ドイツ・オーストリア・イタリアに囲まれた内陸国で、面積は九州と同じほど(約4万2千km2)、人口は愛知県と同じほど(約750万人)です。日本では特に「アルプスの少女ハイジ」の舞台として有名ですね。地下資源はほとんど無く、地形はとても急峻です。一度、フォレスターのロルフを十津川村に連れて行ったことがあるのですが、私が「地形が急峻でしょう」と言ったら、「いや、こんなもんだよ。」と返されました。

 そんなスイスでも、林業は成立しています。比較的痩せた土壌にもかかわらず、です。

 スイス国内ではたくさんの言語が飛び交っています。人件費は高く、日本の約倍にのぼります。主要産業としては金融、精密機械、時計、観光などが有名ですが、共通したキーワードになっているのが、「人の力」「人の知恵」です。アイデアや考え方も含めて、人間の力で稼ぐ、クオリティを高めて高い労働単価を得る、というのが彼らの基本的な考え方なのです。
 吉野林業を体験した方なら、「スイスクオリティ」と呼ばれるこのような“質の面から価値を高める”手法にはピンとくるものがあるのではないでしょうか。

 スイス色の濃い法律や制度が色々とあります。直接民主制や、意外と安い税金、永世中立国家などは特に有名ですね。徴兵制度もまだ残っていて、射撃訓練場があちこちにあります。皆さん日々トレーニングしていらっしゃいます。核シェルターも国中に配置されていて、リスクメネジメントが徹底していることでも有名です。


森の歴史

 では、肝心の森や林業はどうなっているでしょうか。元々スイスは国土の85%が森であったと言われています。しかし、開墾や農地開発などにより、一時期それが15%近くまで減ってしまったそうです。ちょうどその頃から起こり始めた様々な問題を受けて、1870年に森林警察が組織されました。これが現在の「フォレスター」の前身となります。
 スイス林業もかつてはモミやトウヒによる画一的な単層林施業でしたが、洪水・ハリケーンなどの災害や病虫害などによる被害への反省から、「多様な森づくりを」「多様な林業を」という志向性が1880年代から90年代にかけて高まっていきました。その頃に、近世の森づくりの考え方が生まれたと言われています。

 現在、スイスの森林率はおよそ30%、ヨーロッパの平均位です。所有形態についてですが、連邦や州は殆ど持っておらず、企業も同様で、主な所有者は自治体や個人です。また、この自治体というのも各々の入会による形態のものなので、実情は個人所有と大差ないものだと思います。

 スイスの林業は、かつては一斉造林を行っていて、賃金は高く、地形は急峻、さらに周辺にはドイツ・オーストリアという林業大国があって常に厳しい競争にさらされています。また、小規模な私有林が多くて集約化に苦労する、木材価格がかなり低下している、2005年には林業向けの補助金も廃止されている(保安林や環境保護に関する助成金・補助金はあるが、経済的行為に対する補助金は無い)、など、様々な問題や課題があります。
 この様子、どこかの国に似ていると思いませんか?彼らはどうやってこの状況から先に進もうとしているのでしょうか。


林業の人材育成システム

 森林管理の仕組みについて。まず、一番の主体は森林所有者や納税する市民です。次に、ロルフのようなフォレスターがいて指揮を執り、実際の管理や施業を森林作業の林業会社請け負う、というかたちです。もちろん所有者が、自らの力で行う農家林家という形態も数多く残っています。州、や連邦政府、教育機関、研究者も彼らをサポートします。こういった仕組みや、あるいは意識の組み立ては日本と結構違うところではないかと思います。

 スイスの林業ではGISがとても発達しています。森の情報を色々と「見る」ことができるのです。そしてその情報を納税者が活用できるよう整えられています。人材育成のシステムは非常に複雑ですが、簡単に言えば、義務教育を受けた後に林業の専門的な教育を受け、森林作業員の国家資格を取ってからフォレスターや現場監督や州の林政担当役人などに就く流れとなります。学者や研究職は別の系統です。また、フォレスターにも現場を指揮する人と、州の行政面に関係する人の2種類に分かれます。


フォレスターって?~ ロルフの仕事風景

 「森の持続的発展を実現させる」というのが、彼らフォレスターの明確な使命です。それに対して与えられた権限の一例として、木を伐る場合はたとえ森林所有者であっても彼らの許可を得なければなりません。森林警察に由来する警察権もあります(逮捕する権限は無い)。

 ロルフのやっている森づくりについて。現在、彼はおよそ900ha位の森林を担当しており、年間7~8,000㎥の木材を全て択伐で生産しています。植林は殆ど行わず、可能な限り天然下種更新に任せています。生産する樹種はモミやトウヒが主ですが、ブナやタモ、あるいはメープル、ナラなど、多様な広葉樹を駆使して売上単価を上げていこうという努力をしています。


たくさんの林業機械

 集材方法はウインチが多いですが、タワーヤーダも一部使っています。ハーベスタも平らなところでは使われているようです。単一のモミ・トウヒ林はまだまだ多く、このような森で間伐を繰り返して天然更新を起こし、混交した森にするのが彼の目標です。機械について、先ほどウインチと言いましたが、トラクタにアタッチメントを付けてスキッダ的にも用います。タワーヤーダも普及しています。また、「コンビマシン」といって、トラックの上にプロセッサを付けたものもあります。6,000万円程度するそうです。固定式集材機も見かけました。急峻な地形も多いことからこのような機械もまだまだ使っているようです。林業用の機械を農業用トラクタに取り付けて安価に済ませているのも多いです。チッパーもあり、グラップルで手前の材を入れて砕きトラックで運んでいます。


森と道

 道も大変充実しています。アルプスの急峻な地形にもめげません。道づくりには木も多く使っています。ドイツ、オーストリアと違って、洗い越しも道に使っています。


森と木と人々の社会

 ロルフはフォレスター仲間を集めて銘木市を開き、ヨーロッパ中からバイヤーを集めて木材を販売しています。シュガーメープルの銘木などは、1㎥あたり100万円近い値が付くものも稀に出てきます。クオリティの高い木は、木製サッシの工場に高く売れます。今はさらに、木造による中層建築に向けた需要があります。木材でコンクリートを挟んだり、外装に用いたりしています。その他、特殊な形状の建築パーツの製作にも木材が用いられています。

 先ほどチップの話しをしましたが、用途先は中小規模のボイラーが多く、大規模なものはなかなかコストが回収できず、リスクが高くなるためか運用例は少ないです。例外的に、チューリヒ市内でやっているコジェネレーションの発電所があります。