研修会一日目

6月18日:研修一日目

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 一日目はスイスの「近自然森づくり」で行われる施業の一例である、「育成木施業」についての講習となりました。
 講習の主な内容に併せて、研修生との会話や質問から導き出されたスイスフォレスター・ロルフの知識や哲学に触れてください。



 最も大切なことは、観察を通して森の現在(状態)・過去(歴史)・未来(予測)を知ることです。

【現在を見る】
・ここは急勾配、裾の終わりで、ひょろ長い木が多い。
・土はどうか。 木だけでなく土壌を見よう。
①ベースとなる環境情報(気候・土壌)+樹齢・樹種・成長の度合い →木の「安定性」を知る
②木の密度は?材質は? →地域に根ざした知識体系が必要

・クローネ(樹冠)のボリュームは?→木の成長のカギ
 全体の3分の1程度が理想、4分の1以下だと成長は見込めない、

・活力のある土壌が重要。活力=バイオマスの循環が活発→下層植生の程度で測る

【過去を見る】
・皆伐の後、一種を植栽したようだ。最初は下刈りも頻繁であったはず。
・枯死した倒木がちらほら見受けられる→最低一度は間伐があった?

【未来を見る】
・木同士の光を求める争いは過激になり、勝ち組・負け組の木が出てくる。
・樹冠は更に小さく、成長は弱くなり、土壌の力も分散するだろう。
・ここでやるべきことは「材としてクオリティの見込める木の成長だけを促す」こと。でなければ全ての木がクオリティを保てない

材としてのクオリティ=材としての質の良さ+収穫のコストの低さ

「育成木」、育てるべき木に太陽・土壌・人のエネルギーを集約させること。

・恒続林(自然の力で成長・維持する森。ヒトの力は最小限でいい)にするためには、この森(高取)なら少なくとも80年はかかるだろう。

分析の際は、解りきっているような基礎的なことでもきっちり言葉にして表すこと。


◯安定性とクオリティ
 まずは安定性(個々の木、森全体)が第一です。材としての品質はその次。どれだけ素晴らしい材となる可能性を秘めていても、育成途中で倒れてしまっては何にもなりません(支払ったコストが無駄になる)。材のクオリティとは、原木生産だけを指すのではなく、良い木を消費する(できる・したい)人へ届ける経路の善し悪しも含みます。
 ほどほどの材なら世界中どこでも作られていますから、ただでさえコストのかかるスイス・日本が林業で生きていくには、クオリティの高い木づくり・森づくりをしなければなりません。

◯森の利益は誰のものか
 ゲルマン民族にとって「森の機能」はその近くに住まうすべての人々のものなので、たとえ私有地・私有林(土地や立木の権利は個々に主張できる)であっても侵入を禁止できないし、きのこ等取っても罰せられません。そういうコンセンサスがあります。なので、そういった森の公益的機能を充実・改善するために税金を投入することに関して、市民の抵抗はほとんど受けません。

◯林業とリスクマネジメント
 今年、スイスフランの為替変動の影響で材価が20%も下がる事態が発生しました。もしこの20%が利益の全てだとしたら、その瞬間に私は一切の利益を出せなくなってしまいます。林業は常にこのような事態に備えていないといけません(リスクマネジメント)。
 自分の森は普段から様々な樹種の木を様々なクオリティで育てているので、こういったアクシデントの際にも都度最適な「生き残り」の道を見出せます。一種のみに集中した(しかもどれも平均的なクオリティばかりで)森づくりは、経済的に見ても危険です。ふとしたきっかけで一気に破綻してしまう。
 森を「宝の部屋」のように考えてください。例えばその部屋に黄金だけが納められていたとすれば、金の相場が暴落した時にそこはガラクタの部屋になってしまいます。しかし金だけでなく、銀やプラチナ、宝石も納められていたとしたらどうでしょう、金に価値が無くなっても、それ以外の宝を糧に生きていくことが出来ます。

◯林業とリスクマネジメント2
 各々の所有者がもつそれぞれの小さな土地と、それらを集約させてできる広範囲にわたる大規模な森林、それぞれの視点に基づくリスクマネジメントが要求されます。その両立を考えるのがフォレスターの仕事です。ただし、特に小さい土地同士を見比べれば、どうしても種の偏りなどは生まれるものです(土地土地の傾向や適地適作がある)。
 リスクマネジメントに関して、スイスではそれぞれの土地の施業に関するアドバイスは所有者負担ですが、ごく基本的な助言なら公的な負担で行われます。

◯材搬出のノルマ
 スイスでは、公有林は年間の成長量を超えて伐採しないよう規定があります。私有林ならばフォレスターが成長量と同等になるよう伐採量を調整しています。

◯所有者との契約関係
 施業に関して、長期的に継続した契約を結ぶのは稀です。たいていは施業ごとに行います。特定の個人と長期的に契約を結ぶより、施業の都度複数の所有者を繋げて施業提案するのを理想としています。



【育成木と伐倒木の選木】
①育成木にふさわしい木を選ぶ
ポイント:根張りはどうか、曲がり・腐り・キズはあるか、樹冠のボリュームは十分か。
少しでも問題がありそうならば対象から外す。とくにキズや腐りは長期にわたる育成の大敵。決して見逃さぬようにする。

②伐倒木を選ぶ
問題の無さそうな木を育成木として選木したら、次にそのライバルになる木を選び出す。
ライバル=育成木の樹冠にかかる木、成長を妨げる木

 基本的に伐倒するのはライバルのみ、それ以外(育成木の成長に関わらない木)については触らない(コストになるから)。また、育成木の傾斜の下に立つ木はサポーターになる(台風の際にクッションとなる、土壌を固めて安定性を上げる など)ので、極力触らないようにする。

③伐る本数は「次にいつ手入れに来るか」を考慮して決める。長期間空くようなら「次にライバルになりうる木」も伐倒木に選木しておく。

「伐る=コスト」を念頭に、シビアに選木を行う。伐らない・放っておく選択も重要。

・数年後に調査し、判断が正しかったかどうかを判定すること。間違っていたとなれば修正する。
 伐り足りないのは修正できるが、伐りすぎはやり直せないし、最悪の場合育成木までダメになる。


【育成木と伐倒木の選木:2本目】
 2本目の育成木の選定で重要なのは、1本目と決して(未来においても)競合しないこと。広葉樹は枝が広がるのでとても大きな距離を必要とする。針葉樹はそこまででもなく、だいたい10m程度の空きが基本。もし10m付近に良い木が見つからなければ、更に距離を取って探すこと(間違っても距離を詰めないこと)。とにかく、「ついでに伐る」という感覚は持たないこと。常に「伐るコストを上回るリターンがあるか」に気を配る。

伐るのは コスト<リターン となる時のみ。明確に考える。

 そういった判断のためにも、フォレスターは担当する森林の木一本一本まで熟知することが大切。


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◯やってはいけないこと
 育成木の隣が育成木になることは避けなければいけません。間伐をやり過ぎて育成木同士の間が裸地になると、光の調整が難しくなる、土壌の安定性が落ちるなど、デメリットやリスクが増して危険です。

○中間収入には投資すべき?
 育成木と関わりのない木(ライバルでもない木)が成長しやすいように手入れを行うのは、賭けになる部分が大きく(もともと育成木に選定できない要因のある木なので)、コストが無駄になる危険性が高いのでおすすめ出来ません。
 最初の手入れで育成木のライバルを伐った後、次にライバルになりうる木も育成木と共に成長するので、数年後それを伐る事で収入につながります。つまり、近自然の森づくりにおいては、わざわざ中間収入のために投資をしなくても育成木のための間伐のみで自然と利益が出るようになるのです。

◯土壌崩壊のリスク
 土壌の崩壊について、色々と対策は立てられますが、それでも全く防ぐことは実質不可能です。対策はしつつもリスクマネジメントを忘れずに。その土地で根を深く張る樹種は近辺に生えているか、下層植生は豊かか、降水の状況はどうか等、様々な面から崩壊の危険性の評価を行ってください。
 また、例えば崩壊地近くの細く弱い木が風に揺られ、その根が土壌を掻き乱してしまいそうな場合など、たとえその木が育成木のライバルでなくとも、「土壌の安定性が増す」というリターンのためにコストを支払って伐るとよいでしょう。そうすれば光も入り、下層植生の活性化により崩壊の危険性がより低下するかもしれません。

◯伐倒木の選びかた
 今回の人工林のような、単一種による単層林にたまたま生えている広葉樹などは、多様性のための貴重な基礎になります。よほど育成木に被害を及ぼしていない限りは残しておいてください。

◯育成木の選びかた
 材として価値の高い木を育成木に選んだとしても、その木の樹冠が薄く成長力が低いと、ライバルを伐っても弱々しいリアクションしか返さないことがあります。伐採のコストや伐ったライバルの成長量を補うほどのリターンは期待できないのであれば、投資する意味はありません。
 また、道沿いに立つ木はなにかと傷つく要因にさらされる立場にあります。今状態が良くとも、育成木には選ばないようにしましょう。

◯育成木の選びかた2
 それほど状態の良くない木を育てる場合、まずは周りを間引いて環境を良くし、木の状態を「ふつう」に戻す必要があるため、伐採はゆっくりと慎重に行います。しかし、まれにある「強い木」、現状十分に成長している活力ある木の場合は、周りを伐採し空間をさらに空けて、「もっと強い木」にするという方法もあります。そういった強い木はリアクションも早く大きいので、リターンも期待できます。

◯育成木の存在を他者や次世代に伝える方法
 私の理想は、全くの素人が森に入ってきても一目でそれが育成木と解るようにすることです。わあ!と驚きをもって受け入れられれば最高ですね。施業後すぐには解らなくとも、数十年の後には誰にでも解るようになればよいと思います。
 しかし現実はそう簡単にはいかないので、たいていはマーキングを行います。テープやリボンは数年で傷み、識別できなくなってしまうのでダメ。スプレーやペンキなどで印を付けます。
 マーキングにはなるべく同じ色を長く使い続けるようにしましょう。それが重要な木であると、自分以外の周囲にも解らせないといけないからです。どの色が何を意味するマーキングか、周囲に浸透するまでは注意書きの看板や周知なども徹底しましょう。

◯森の未来を予測する
 自然にはもともと森林を形成するちからがあります。この地の周辺に自然と(天然更新で)生えている樹種、その中でも材としてある程度の価値が付くものを把握しておきましょう。全く放っておけばいずれ広葉樹林になるような環境・土地で林業をしたいのであれば、無理をせず針広混合林を目指すよう施業するのも手です。ただし、コストがかかるので植栽は行わないように。

◯おもしろい森林施業にしよう
 単一林に比べ、混合林での施業は確かに効率の悪い、難しいものになりますが、はるかに「面白く」もなります。緻密で複雑な林業にチャレンジすることに生き甲斐を見いだせるようになるのです。同じ木を同じように育てるだけでは、いずれ産業として衰退するか勢いのあるものたちに追い抜かれてしまうでしょう。

◯若者への訴えかた
 単調で閉塞的で大変でしかも儲からない仕事、それでは当然若者はついてきません。若者を引きつけるのは、①難しさや挑戦のしがいがあり、②きっちりとした教育プランがあり、③見合った収入を得られる仕事です。

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◀放置された人工林の中で
 講義を受ける研修生たち。























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◀疑問や意見はその場で発言。
 参加した誰もが、積極的な
 姿勢で研修に臨みました。