研修会二日目

6月19日:研修会2日目



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 2日目は比較的若い、急斜面の雑木林に視点を移しました。
 放置された人工林との考え方の違いや森を貫く道に関する知見に加えて、あらゆる仕事と切っても切れない”コミュニケーション”の講義となりました。




「何かやるなら早くしなければならない」


まずは「森の到達目標」を見定めること。
→しいたけを育てる?高価な材を育てる?土壌を守り下に通る道の保護につなげる?
→その目標の実現の可能性はどのくらいか?

現在を見る
・ここは「若い森」。細い木が多く、すでに倒れて腐った木もある。
・若い森は将来の可能性が多いが、その分やるべきことも多い。
・安定した種は見当たらず、高価な材も期待しにくい。
・南向きで急峻。下草は少ない。多層林で、低木も多い。

◯目的の候補
 山裾に道が通っているため、その保護が大切な目的のひとつとなるでしょう。必要なことは「土壌の安定性をさらに高める」こと。従って、単調な林業目的ではなく、多目的な視点で考えましょう。

過去を見る
・おそらく過去に皆伐があり、その後幾つか針葉樹を植えたらしい。
・広葉樹は天然更新で育ったようだ。
・樹齢は軒並み20~30年。土地の持つ成長力は低い(急峻な土地は水分や養分が速く流れ落ちるため)。
・南向き斜面=夏場の気温上昇が強い。
・おそらく土壌は弱酸性、こういった環境の分析はインディケーターの生育がヒントになる。

◯インディケーター(指標植物)
 土地の性質や特徴(土のpH、柔らかさ、降水、湿度など)を象徴する植物をインディケーターと呼び、その土地を読み解く手がかりとします。例えば、目の前に生い茂るシダは弱酸性の土壌を好みます。

未来を見る
・この土地は20年後どうなるか?
 →光を求めて広葉樹は葉を広げる。針葉樹は広葉樹に覆いかぶさられて負けるか、細く上へ伸びる。
  マツも生えているが、十分に育成するにはそもそもの光が足りない。
  ・土地の安定性が落ち、材としてのクオリティも下がる。
  ・土地のエネルギーはたくさんの木に分散してしまう。

◯林業成立の可不可を判断する
 ある土地に林業で成立させようと思う場合、次のことをよく考えてください。その土地はそれだけのポテンシャルを持っているだろうか?成立を目指して行う施業はその土地に暮らす作業員でまかなえるものだろうか?そのコストは帰ってくるだろうか?
ここでも同じように、コストとリターンをシビアに考えることが重要です。

◯「エコロジー」から見た森づくり
 古くは里山のように、樹齢30年ほどの若い木を材木(薪、炭、ほだぎ)として搬出し、萌芽更新を起こすことで森を安定させる手法は、需要が無くなったこともありスイスでは滅びましたが、たいへん興味深い方法です(低木作業)。
 ひとつ注意すべき点があります。林業をエコロジーの思想込みで行うのならば、必ずPR・広報活動込みで考えることです。その意義深さを周知させるのも重要です。


【育成木の選木 2】
・前回(針葉樹)と違い、育成木は20mおきほどに距離をあける(広葉樹は横への広がりが大きい)。
・単層林では緩やかに手入れをしないとネガティヴな反応が出かねないが、今回のような複層林では逆に強めの手入れが必要。そうすることで光が入り、更新を促すことにも繋がる。
・結果としてギャップを広く開けることになるので、森全体で見ればコストがかかるようになる。一本の育成木にとっては強度の手入れでも、森全体としての総コストは低くなるよう注意すること。


○完璧は禁物
 スイス人も日本人もこだわりが強く、時にパーフェクトを求めがちですが、その勤勉さが常に優れているわけではないことを肝に銘じましょう。チャレンジし、その検証から学ぶ心を忘れずに。

◯エコロジーとは
 そもそも何をもって「エコロジー」といえばよいのでしょう?極端な話、三千年放ったらかして原生林に戻すことも「エコロジー」であると言えます。
 たいていの場合は何かしら動植物をターゲットにし、それを軸にして森づくりを行う方法をとります。ではその時に何を選ぶか。稀少な種がターゲットとなることが多いですが、それが本当にその土地にとって正しい選択かよく考えましょう。既にその土地からいなくなった動植物をターゲットにしてしまったとしたら、それらがいくら稀少でもコストばかりで結局森づくりは失敗する恐れが強くなります。

◯森林管理と自然保護
 昔はフォレスターと自然保護・愛護団体は犬猿の仲でした。私はこのままではいけないと感じ、自然保護を行う人たちと交流を深めて、相手の領域についても知識を蓄えてコミュニケーションを円滑にできるよう努めました。蝶が好きなのも幸いして、その方面では専門家にも負けないほどの知識を蓄えられ、保護団体の人たちともしっかりした友好関係を築けるようになりました。そして、やがて自然保護のプロジェクトを自分の管轄地で運営するようになりました。
 私は自然保護の対象地においても価値の高い大木を育てて経済的に成り立つようプロジェクトを組み立てています。林業目的であっても保護目的であっても、やはり経済的な視点は外せません。

○自然保護プロジェクト
もちろん、こういった保護プロジェクトを行うことに対する反発や抵抗は、特に私有林ではつきものです。私はまず公有林で小さなプロジェクトを行い、よその所有者もその様子を自由に見学できるようにしました(もちろん、私有林での大規模なプロジェクトを見据えてのことです)。特に、林業を行うにふさわしくないような土地でも、そういった保護プロジェクトを行いつつ材を育てられる、というところ(しかもその際の諸々の経費は保護団体からプロジェクト経由で出る)に重きを置きました。
 現在、プロジェクトに関して所有者と特別な契約はほとんど交わさず、信頼関係を礎に運営しています。そうすることで、所有者は好きな時にプロジェクトを止められるという気軽さを手にでき、かえって許諾を得やすいのです。もちろん、そうできるほどの信頼関係を築くことをまずは徹底しましたが。
 先日、森を「宝の部屋」に例えましたが、そこには種々の材木や生産物だけでなく、「自然保護」という資産もある、と考えると良いでしょう。

◯自然保護のための仕事
 自然保護に関して、説得する相手は森林所有者だけではありません。森林作業員も同じで、昨日までチェーンソーで木を切っていた作業員に、今日からは希少な草花を保護する仕事をしろと、どうやって説得すればよいでしょうか?シビアな話ですが、現に木を伐って材木を作る仕事が無いのなら、お金を稼ぐためには色々なことをしなければならないのです。
 自然保護のための仕事は様々です。木の伐倒はもちろん、土を貧栄養化させるために落ちた枝をかき集めたり、外来種を駆除したりすることもあります。草刈りひとつとっても、自然保護が目的なら手法は変わってきます。一律にごっそり刈り取るのではなく、昆虫などの逃げ場になる場所や丈を残すのです。保護に沿った知識が必要となります。小さなトカゲや昆虫のために、石や枝で小山を作ったり、小さな水溜りを作ったりなども、立派な仕事のうちです。

◯この地を希少な蝶の保護区とするならば
 試しに、ある稀少な蝶をこの土地で保護するプロジェクトを立ち上げることを考えてみましょう。
 まず、その蝶がどのような土地を好むのかを調べることが大切です。研究者などとも協力しましょう。とある蝶は生息に低木が必要で、またある蝶はナラの木が必要であるなど、その条件は様々です。必要な木を保護し、そのライバルとなる木を伐倒するのは通常の林業と同じです。ただし、ここでも森の多様性は大切に、蝶の好みの種一辺倒になってしまわないよう注意しましょう。また、手入れについても、萌芽に卵を産む蝶であれば木々の手入れは短期間に細かく行わなければなりません。そういった生態に関することなども、知識として持っておく必要があります。


【道のつくりかた】

道は収穫のある場所に作るもの。どのように道を作れば最短距離で効率よく材を運び出せるかを考える。

・道に木は育たない。したがって、道が増えるほどに木材生産の視点では無駄が増える。
・道を作るにあたり、所有の境界は関係ない。そのことはまず脇に置いて、ひたすら効率の良い道作りを考える。
・まずは、既に通る太い道、尾根筋、川など、既存の「筋」から森を見る。勾配や岩の配置などを考慮し、道を通す土地に「易・並・難・不」とランク付けをする。難・不は架線集材(タワーヤーダなど)を使うのが基本になるが、結局道は必要。


○道の分類
 スイスの林道は大きく分けて5分類になる。主幹となる林道は、42tトラックが通れる規模の舗装された道で、勾配は12%以下。次に砂利などで整えられた大型機械の通れる道、舗装の無いむき出しの機械道、同じくむき出しの作業道、最後に、機械を運び込むために土地にクセをつけただけ(土木工事をおこなわない)の道、となります。
 道に関して、最も大きな間違いは、毎年毎年、その時の収穫場所までの道を引くこと。その時その時は搬出が楽になっても、森全体での総距離はどんどんと延びてしまい、コストが凄まじいことになる。

◯スイスの林道の資金
 昔はまず連邦が払い、さらに州が払って、残りを所有者で割って支払っていました。今、連邦は保安林などに対しては資金を提供しますが、他は関与しません。3分の2を州が払って、残りは所有者負担となります。

◯「土地改良法」
 スイスのユニークな法制度のひとつに、土地の改良に関する是非(沼地の排水や道の設営など)を決める投票で「棄権」を選んだ人の数は「賛成」の数としてカウントされる、というものがあります。当然、賛成多数となれば反対派は従わなければなりません。この制度はもともと、農地や沼地などの整備を効率よく進めるために作られましたが、森林にも適用されるのです。
※日本では1人が反対(思想云々でなく経済的な理由でも)して計画全体がダメになることもしばしば。

◯道の診断
 ちなみに今日通ってきたところ、これは「道」とは呼べません。水の溝ができてしまっているし、崩れも多いからです。林道にとって一番のライバルは「水」。降水をなるべく早く脇に排水するよう対策しなければなりません。いくつか対策を考えてみましょう。

対策① 片勾配にする

メリット:山側には水路がいらない、安く済む。
デメリット:単位面積当たりの流水量が増えるのに加え、水が加速する。また路面凍結の危険もある。
対策② 山型勾配にする
メリット:道の両側に水が落ちるので加速が緩やか。
デメリット:道の傾斜がキツイと使えない(これは片勾配も同様)。
対策③ 道を何か硬いもので覆う(コンクリートとか)
対策④ 道を横断させる形で一定間隔に排水路を設ける

 ゴム製の水切り装置には納得がいきません。土砂などで埋まるのが早く、維持管理に手間がかかるはずです。道はメンテナンスが不可欠。降水対策を何も行っていない道はメンテナンスを頻繁にこなさなければならず、コストが増します。金属製の排水路などは、きちんと設計設置さえすれば、自ら土砂を排出する自浄機能も兼ね備えているため、長期的に見ればコストを削減できるのです。

○林道のメンテナンス
 スイスでは、林道の日々のメンテナンスや人災(設計ミスなど)による破損には補助が出ません。たいてい、森林所有者は道路管理組合を組織しており(州が監督・指導)、林道はその組合が所持したうえで農業従事者などに管理を委託していたりします。そういった組合は常に一定の資金を蓄えていなければなりません。




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【林業とコミュニケーション】


○所有者との話しかた
 所有者とフォレスターとで見解が一致していればコミュニケーションは容易いですが、そうでない事例もとても多いものです。
 所有者がある木を伐りたいと言い、フォレスターとしてその意見に賛成できないときはどうすればよいでしょうか。ある人の場合はビジネスの面から淡々と話をしますし、ある人には生きがいの面から話を進めます。またある人の場合は、そのご家族を味方に付けて説得してもらいます。どうするにしても、その人となりを知っていなければいけません。その人の歩んだ人生、奥様やお子さんのこと、様々なことを把握しておくのです。
 また、ダイレクトにダメだと言うのは避けます。たとえ自分の方が豊富な知識を持っていたとしても、突っぱねるようなマネは絶対しないことです。
 すべきことは「なぜその木を伐りたいのか」を知ること。誰かにそうしろと吹き込まれたのか、あるいは単にお金が必要なのかもしれません。いずれにしても、理由をきちんと把握すれば説得の糸口は見えてくるものです。それでも今伐りたい、となった場合は、今後価値の上昇が見込めそうにない他の木の伐採を提案するのも手です。
 自分のすべきことは「森林の価値を高めること」、ですが自分か所有者のどちらかが引き下がるのではなく、両者が納得し満足いくように提案をしていきます。なるべく最善を尽くしはしますが、最後の判断は所有者に委ねます。そして、どのような結論になろうとも、次につなげるため所有者との関係は大切にすることが重要です。

○所有者との話しかた2
 所有者とフォレスターが一対一で対立するだけでなく、複数の所有者が揉めている間に入ることもあります。こういう場合、他の所有者に関する情報は絶対に漏らさない(「○○さんはこうしています」等)よう注意します。また、感情論で叫び合うような状況にはならないよう誘導しなければなりません。

○山林の売買とフォレスター
 基本的に山林の売買はフォレスターを介さずに行われます。しかし、所有者はその森林の価値を知りたがる(というか知らないと売りようがない)ので、その際にアドバイスを行うことは日常茶飯事です。簡単なアドバイスなら無料で行いますが、きちんとした資産計算となると料金が発生します。



【指令の復唱訓練】
指示された内容を咀嚼し、自分の言葉で言い換えて復唱するトレーニング


例)チェーンソーをメンテナンスしてください→解りました、いつでも使えるようにしておきます

①若い林の広葉樹が良く育つように鉈で手入れをしてください
 →若木の周りを覆う枝を払い、低木を伐採しておきます。

②オオムラサキを捕ってきてください
 →どうしてオオムラサキが必要ですか?
  より捕りやすい種ではダメですか?
  どのような状態で捕ってくればよいですか(生け捕り・標本)? 
 ※不明な点は質問し、明確にする。

③あの木に登ってチェーンソーで枝を切り落としてください
 →それは危険すぎます、私には無理です。
 ※自分の限界を把握し、それを超えるものにはノーということも時には大事

※こういった復唱・言い換えのトレーニングはスイス林業の職業訓練でもしつこく繰り返される。相手の言わんとすること、その意味や意義を的確に捉える能力を鍛える。こういった能力は実務のうえで「何故それを行うのか?何を目標としているのか?」を明確にするためにとても重要になる。


○情報とコスト
 情報は一方通行のものではありません。特に新しい人と仕事を行うときには、意思を疎通させるために多くの質問が飛び交うことになります。
 なので、多くの場合仕事はいつも同じ業者に頼みます。そうすることで前提情報や価値観の共有に時間やコストを払わずに済むからです。重要なのは「一番安い」ところではなく、「一番やりやすい」ところを選ぶということです。

○FSC(森林認証制度)について

こういったものには、メリットとデメリットがつきものです。 私の個人的な見解を述べます。

メリット:ヨーロッパで初めて広く知れ渡った森林にまつわる制度で、ラベリングとしてとても強大です。WWFが推し進めていることもあり、今やどんな製品にもこのラベルが付くようになりました(付けないと注目されず、売れ行きが悪くなる)。また、これまで無関心だった人にもエコロジーの視点の啓発になったことは大きな利益と言えるでしょう。

デメリット:まず、取得に多大な資金と時間と手間暇が必要です。その上に煩雑な規則が山とあり、おまけに国によって規定や審査の厳しさが変わってしまうのです(FSCの規定は基本的にその国の既存の環境保護の規定に上乗せするかたちで決まるため、もともと規則の厳しいスイスでは更に厳しい規則が設けられ、逆に規則の緩いドイツでは緩い規則だけでFSCが認証される)。
 そうした相対的な規則にも関わらず、FSCがあるというだけで世界中に通用させられるのはいかがなものでしょうか。そもそもの規則が緩い国で取られたFSCに意味はあるのでしょうか?

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◀比較的若い雑木林の前で。
 スギやヒノキを植える以外に、
 林業がやるべきことは何かを
 話し合いました。
















  

4
◀コミュニケーションの
 トレーニング風景。
 当たり前のようで、
 なかなか難しいものです。