研修会三日目

6月22日:研修会3日目



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3日目に訪れたのは、今までで最も若い、皆伐後3年目の小さな森でした。
「森の卵」から未来を見通すにはどうすれば良いのでしょうか。

後半は、森林や林業のこれからについて、どうすれば町の人々に森のことを知ってもらえるのか、林業を盛り上げられるのか、ロルフと研修生の間で活発なアイデアと熱意が交わされました。





○問題に立ち向かう心
 我々は目の前に問題が立ちはだかると、それが世界中で猛威を振るう敵いようのないものだと考えがちです。例えばササの繁茂による天然更新の阻害。しかし、多くの問題は適切な対処で回避できうるものです。

○天然更新のカギ
 カギは2つ。まずは①周辺に母樹があること。そして、②その地に生育する樹種について、こちらがよく知っていることです。例えば、目的の種の発芽トリガーは何なのか、発芽後のライバルとの競争はどう進むのか、など。ここでのフォレスターの仕事は、どの木とどの木は上手く共生できて、どの木とどの木は争い合うのか、ということについて熟知することです。成長の早い木の側に成長の遅い木が近くに立てば成長の遅い木は早い木からプレッシャーを受けるし、陰樹と陽樹は隣りあっても上手くやっていけます。
 樹種を混ぜた森づくりは何かと面倒ですが、きちんとした知識があれば稀有で価値の高い森をつくることができます。

◯パイオニア種
 自由空間(裸地、日中は日が差し気温が上がり、夜間は冷える場所)でいち早く成長する種をパイオニアと呼びます。大規模な伐採はこうした自由空間を大きく作るため、ほとんどの木にとってはデメリットになりますが、パイオニア種にとってはまたとない機会といえます。
 ですから、自由空間に木が生えてきても喜びたい気持ちはぐっとこらえてください。そこで林業を行うにあたり、材としてお金になる木はあるか?それを育てるのにかけるコストは将来戻ってきうるか?パイオニアの繁茂に一喜一憂せず、よく観察し、考えましょう。

◯パイオニアのタネ
 パイオニア種はタネが軽く、風で遠くからでも飛んでくることが多いです。逆に陰樹などはタネが重くてほとんど飛び回らず、時に動物が運ぶこともありますが、大抵は母樹の周辺でしか次世代は育たちません。

○忍耐と見返り
 伐採後、自分の思うタイミングで直ちに天然更新が始まるとは限りません。忍耐が必要です。忍耐することそれ自体にお金はかかりませんが、結果を急いた場合や間違えた手入れを行った場合はお金がかかってしまいます。代表的なのは「植樹」です。どうしても単一林になりがちで、何かハプニング(病気・獣害)があった時の被害が大きくなるのです。天然更新は時間と忍耐こそ必要ですが、お金はかかりません。

○若い木の生かしかた
 ちょうどナラの若い木が生えていますから、これに注目してみましょう。
ギャップ周辺の少し暗い場所にもナラの稚樹があり、それらは小さいながらよく目に付きますね。では光豊かなギャップの中心ではどうでしょう。既に成長の早い木に覆い被さられていて、ナラの木はほとんど見当たりません。こういった環境で、ナラの稚樹を育てるにはどうすればよいでしょうか?
 暗い場所に生えた稚樹を育てるためには、林縁の母樹を切り進めて暗い場に光を当てるのが一番でしょう。しかし、ただそうしただけではまた成長の早い木に先を越されてしまうので、例えば今のうちから何らかのマーキング(獣害防止網など)を行い、将来母樹を切った後もどこにナラがあるかわかるようにしておけば良いかと思います。そうすれば目的の稚樹を見失ったり、傷つけたりして余計なコストを背負わずに済みます。

○「森の卵」に未来を見る
 生まれたての森には、私たちが思い描いた理想の森の姿そのままに誘導できるだけのポテンシャルが秘められています。
 自然にしておいて大きく育つ木が、材としてクオリティが高いとは限りませんし、また、森の「自然に放ったままで行き着く姿」と「将来私たちが求める姿」の開きは、時間がたつほど大きくなります。逆に言えば、森がごく若いうちから求める森林を見据えて誘導していけば、小さいコストで大きなリターンを期待できるのです。

◯手入れのイロハ
 手入れというのは、目的の種・個体以外を取り除いてしまうということではありません。現時点で優勢な個体のために周りを下刈りしても無駄(しなくてもその個体は問題なく育つ)です。逆に、既に他の個体が覆いかぶさっている個体を育てたいのなら、周りの木を除いて光を入れないといけません。
 その手入れの要不要を判断するには、土地に根ざした知識が必要です。できるだけ少ない回数で、コストをかけない手入れを選択すること。「できるだけ少ない手入れ」はなにもこちらの経済的な理由に限ったことではなく、育成木の成長のためでもあります。育成木以外をきれいに取り除いてしまうと、周囲が「自由空間」に近づいてしまい、当の育成木にとっても厳しい環境となります。逆に、多様な種が生育していると、樹種によって異なる根の形態が土地の潜在能力を引き出します。また、色々な葉が地表に落ちることになり、様々な速度でそれらが腐葉土に変化します。好みの異なるバクテリアや昆虫が同じ土地にたくさん住まうようになり、生物多様性は豊かになって、育成木の成長にもプラスに繋がるのです。

◯厳しい現状に目をくらませぬよう
 周りが単調な森なら次世代も単調になりがちなので、そういう場合は伐採後の植樹も選択肢になりえますが、せっかくだから「実験」をしてみてはどうでしょう。試しに5年待ってみてください、その間に良い樹種が入ってくるかもしれません。10年待ってもダメなら植樹しかないでしょうが、2年で諦めるのは早すぎます。
 植樹というのはリスクもコストも高いのでおすすめしません。もしどうしても行う場合は、最低限の本数に留めることです。また、丈夫で活力の高い苗木を厳選しましょう。苗木の出所にも木を配ってください。スイスでは苗木の出所が全て明確に管理されています。クオリティの低い母樹から育った苗木は避けなければなりません。また、目的の土地と標高が違いすぎるところからも苗木を取ってはいけません。周りにライバルの少ない標高の高い土地の苗が、ライバルの多い標高低めの土地で生き残るのは難しくなります。苗木の出所から標高±100メートルを超えないことです。

○森の可能性
 森に生きる木々や草花の潜在能力をしっかりと学び、知り、感じ取ることが大切です。あるトウヒなどは、低地で育ったものは伐採後には死ぬしかないが、高地のものは切り株から萌芽更新するし、生きた枝が地面に触れていれば挿し木のようにやがて根付くようになります。
 私たちの知らないことは即ち存在しない、というわけではありません。時として、私たちの知識の限界を超えた現実があるのです。




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【町と森】

山にいるだけではダメ、相手を山に呼んでもダメ。
こちらから町へ出向かなければ啓発にはなりません


◯町の人々と森の人々
 町に住む人々が森に入ってくることは稀です。その目的もハイキングやバーベキューなど、森を楽しみ利用することがほとんどで、森そのものやそこで働く人々への理解はむしろ小さくなっています。道を守るための保安林を維持していく場合などは特に、町の人々の理解が必要不可欠なのに。
 ここ最近、スイスでも市民への啓発活動がとても重要な位置付けとなってきています。保安林は市民の安全の為の場であること、資源のひとつであるバイオマスを供給すること、炭素固定の役割など、人々の生活にとても密着していることをアピールする機会を増やしています。

○森を知ってもらおう
 かつては森に人を招き、啓発活動を行っていました。しかし何回か行ううちに、同じ人しか来ていないことに気がつきました。大金をはたいても、これでは何のアピールにもなりません。
 森の中にいるだけではダメなのです。私たちの方から市民のいる場に出向かなければ。
 スイスでは中学を出て職業訓練を受けようとする子供たち相手にイベントを開催、森で働くことをアピールしました。また、これまでで一番大規模なイベントは、チューリッヒ中央駅で開催したものです。巨大ホールを借り切り、木製のタワーを建設したり、本物の立木を持ち込んでコンテナごとにテーマを設けた「森」を作ったりました。フォワーダ・タワーヤーダまで持ち込んで林業のスケールをアピールしました。
 これまで市民のイメージは、「森で働く人々は頭が弱く単純なことしかできない」というものでしたが、専門性が高く緻密さ知性を要求されることをアピールし、そのイメージをひっくり返すことに成功しました。ホールを会期中3日間借りるだけでも1000万円近い費用が必要となりましたが、それ以上の有意義な啓発となったと思います。

○森を知ってもらおう2
 例えば今歩いているこのハイキングコース、もともと人々が多く利用するのなら、これは大きなチャンスです。林業に関する解りやすい看板を立てるなどして啓発活動を行えるのではないでしょうか。
 ここでひとつ注意すべきなのは、住民が接する森と林業の為の森とでやるべきことを変えないことです。市民のためにと思って何か特別な施業などを行えば、市民はそれが森林や林業にとって「ふつうのこと」だと思いかねません。山奥ですべきことを市民の前でもすることが大切です。

◯林業と人々のバッティング
 町に近しいところで林業を行うとどうしてもバッティングが起こります。なるべく早い時期に情報(何をするのか・いつするのか・なぜするのか)を出しましょう。方法は様々ですが、たいていは看板や新聞のインフォメーションを使うことが多いです。

◯スイスと日本の広葉樹林施業
 スイスの広葉樹林を巡る環境は日本と比較が難しいです。スイス人は長い時間をかけて広葉樹林での林業を行ってきたため、現在林業として価値の高い林が形成されています。
 もしも今から日本で、しかもなるべく短期間で、広葉樹の林業を行いたいのなら、まずは地力の高い土地を選別することです。斜面の下、谷沿いなど、栄養が豊富で水分の豊かな土地を探しましょう。そういった比較的「容易な」土地で経験を積んでから、尾根筋などの条件が厳しくなる場所で行うと良いかと思います。

○ネガティヴな間伐、ポジティヴな間伐
 成長の劣る木を伐ってギャップを形成する「ネガティヴな間伐」、育成木のためにライバルとなる木を伐る「ポジティヴな間伐」、これらの間には優劣はなく、どちらが正解という決まりもありません。その森にどのような目標があるかによって選択は変わってきます。



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【奈良県の森林の未来を考えるふりかえり】

○とある林業家の思い
 材の価格が上がらないことにはどうにもならない現状で、いっそ試しに市場価格を無視してこちらが希望する額で売り出してみてはどうか?
 色々と試行錯誤している中で感じたことだが、例えばデザイナーやクリエイティブな意識の高い人などには、高値でも材の質の高さや歴史の重みなどで響くところがあるようだ。相場と希望との差違をそういった「ストーリー」の面から埋める努力を行えば、全く不可能な話ではないのでは?


○日本の木をどうやって日本で使ってもらうか
 木に関わる人々をつなぎ合わせるコミュニティの構築が必要になるでしょう。木に関わる以上は同じ利害関係を共有しているということです。
 また、木の消費のキャンペーンは必ず地方と中央(東京)が連携して、全国的な規模で行うことが肝要です。スイスでは「ホルツ21世紀の木」キャンペーンを全国規模で行っていますが、その反響はとても大きく、法律を変えるに至るほどです。これまでどうしても「木材は燃えやすい」という誤解が根強かったですが、時として鉄骨よりも強固だという研究結果に基づいた木材の特性のアピールを続けることで、ついに消防法が変わり、今では木造で6階建てまで建てられるようになりました。

○林業がすべきこと
 確かに林業の仕事は大変ですが、それが若者の離れる原因でしょうか?例えばスポーツはどうでしょう、大変で困難な面がたくさんあるにもかかわらず、多くの人が興味を持っています。それは何故か。スポーツには明確で魅力的な「目標」や「目的」があるからではないでしょうか。そのために人は地道なトレーニングを何年も辛抱強く行いますが、それが林業にはあるでしょうか?あるいは、スポーツには社会からのたくさんの支援や支給(道具・ノウハウ・教育・将来像)がありますが、林業はどうでしょうか?トレーニングのための設備、安全面での保証、学ぶためのインフラ、全てがダメとは言えませんが、若者が林業で活躍するためのものを林業側が十分に提供できていないのではないでしょうか。
 スイスでは森林作業員の教育を受けた人は他分野でも重宝されます。それは、厳しい教育やトレーニングをくぐり抜けた人材であるという認識が社会に定着しているから。泥だらけになるのも厭わず、何事にも注意深く、様々な技能を習得し、問題解決の思考を訓練された人材となれば、どこででも受け口があります。林業は忍耐力、観察力、技術、教養など、様々な要素を必要とします。林業の教育を受ければそういった要素を備えた人材になれる、という認識が、林業に携わる誇りにもつながります。そうなれば志願する若者も必然的に増えるでしょう。若者が離れていくのは、教育面でのサポートが弱いからではないでしょうか。

○コストカットの極意
 まずはしっかりとした「目標」を設定することです。次に、その「目標」を実現するにあたり、自然の力に頼れる部分を徹底的に洗い出すこと。放っておいても成されることに人間がわざわざコストを支払う必要はありません。自然の力を最大限利用できるようプランニングしましょう。

○利益アップの極意
 よく、「せっかくクオリティの高い材を作っても高く売れない」という声を聞きますが、皆さんどこへ材を売りに出していますか?私はクオリティの高い材が採れたとき、もちろんなじみの製材所などに持って行くこともありますが、よりハイクオリティなもの(HQ材)は楽器職人や突き板業者、クリエイティブな手腕を持った職人のもとへ届けます。そういった材はほとんどがスイス国外に出て行きます。もっとも高価な材の取引先はアラブ。高価な材は時に銀行など、お金があるところで家具などに使われます。ちなみに、スイス最高品質のモミの主な取引相手は日本です。スイスのモミは油分が少なく早く腐りますが、それが良いということです。お墓などに使われるとか(※経木のこと)。

 それを欲する人のもとに供給するのが、HQ材を高く売る秘訣です。例のモミ材は土場渡しで立米2万円ほどです(末口直径は最低50cm、材長は25m前後)。日本の港に着く頃にはどれほどの価格になっているのでしょう、きっと相当な値でしょうね。もしも日本で皆さんが同じクオリティのモミを安価に作れれば、その市場を得られるのです。
 ではどうやってHQ材を求める人を見つけ出せばよいのか。スイスではそういった方面の専門雑誌が出ているし、フォレスター同士で情報交換をする中で見つけ出すこともあります。時に自分のアイデアを他人に取られてしまうこともありますが、反面、ひとりでは供給の限られるHQ材を、仲間と協力して安定供給できるようになることもあります。
 
 消費者はあちらからやってきてくれるわけではありません。こちらから仕掛けなければダメです。
 なじみの製材所で売れなかったからといって諦めないこと。その材を欲しがっている人は、必ずどこかにいるのです。その人を探し出す努力が必要です。


 もうひとつ、材を高く売る秘訣は「Just in Time」、つまり消費者が望む材を望む時に直ちに渡せるよう、備えておくことです。
 そのためには様々な材を育て、いつでも出せるよう体制を整えておく必要があります。確かに大変ではありますが、新しいビジネスチャンスとなるでしょう。巷に溢れる同規格の材を生産するだけでなく、その人だけのための「スペシャル」に対応するのです。そうすれば多少高く付いてもお客は納得するでしょう。

○おいしい獣害
 獣害の問題はとても深刻です。しっかりとした対策が必要となります。スイスではハンターによる頭数制限が厳密に行われています。獲られたシカは食用として大人気です!スイス人は皆この鹿肉が出回る季節を、いつも首を長くして待っています。相場は牛肉の倍近いですが、それでも人気は衰えません。なにせ美味しいですから。レストランのシェフと組んで仕事をすれば、獣害対策も立派なビジネスチャンスです。

○自分たちのこれまでと世界のこれから
 何を言ったところで、皆さんの生活が成り立たなければ話になりません。それを達成することも近自然の森づくりの大事な要素となります。ここで分析すべきは森だけではありません、森を作る皆さん自身の分析も必要になります。過去どうだったのか、どんな強みがあったのか、それがどう変わってきたのか、そして、これからどうなっていくのか。仮に何もアクションを起こさなければ、皆さんの会社は遠からず消滅するでしょう。それは嫌ですよね。
 また、木材市場のことを考えるとき、日本の動向にしか気を配っていないというのはいけません。皆さん、世界の木材消費が今後どうなるのかについての指標をご存知ですか?消費は世界的に増えていくのです。今現在、すでに不足している地域があるほど。そういう需要に対して供給を行う時、重要になってくるのがラベリングです。世界中の木材の中から注目を浴びるためのブランディングが必要になってきます。木を欲しがる人に向けて、これでもかとアピールするのです。

○自分たちの強み、自分たちの弱み
 自分たちの「強み」は何なのか、それをねじ込める・発揮できる「市場の隙間」はどこにあるのか、それを考えてください。同時に、自分たちの「弱み」は何なのか、どうすればそのダメージを軽減できるのか、それも考えてください。
 例えば、林縁にクオリティの低い木が多く、これらは材としての価値を見込めない、これは「弱み」です。弱みそれ自体はそうそう変えられませんから、どうすればそのダメージを減らせるかを考えます。
 私の担当区では、そういったクオリティの低い木は燃料用のチップにして売っています。しかし、それも最初は容易ではありませんでした。チップを作っても、それを消費する相手がいないのです。そこで、自分の住む地域の公共施設や周辺の建物に売り込んで、暖房設備としてチップボイラーを導入してもらいました。私はチップの販売先を確保できるようになりましたし、周辺の施設なども重油よりランニングコストの低いチップボイラーを導入することでコストカットを実現させられるに至りました。
 チップの生産についても、なるべくコストを抑えられる方法を選択しています。投入する際に枝払いなどが不要なチッパーを選んだり、導入してもらうボイラーもチップを乾燥させなくてもよいものにしてもらったりしました。
 「弱み」というのは面と向かいたくないものです。時にはそれから目をそらし、さも無いもののように考え、日々やり過ごしてしまうこともあります。ですが、それではいずれ立ち行かなくなります。弱みを知り、それを乗り越えていかなくてはなりません。



4
◀「森の卵」の前で、
 その可能性を読み解くロルフ氏。





















 

6
◀「将来木」の選定の訓練。
 研修生が選んだ木を
 一本一本調べていきます。