はじめての万葉集

県民だより奈良
2020年7月号

はじめての万葉集
【vol.75】
み吉野の 玉松が枝(え)は 愛(は)しきかも
君が御言(みこと)を 持ちて通(かよ)はく
額田王(ぬかたのおおきみ) 巻二 (一一三番歌)
み吉野の立派な松の枝はいとしいことよ。
あなたのおことばをもって通って来ることよ。
蘿生(こけむ)せる松の柯(えだ)

 この歌は「吉野より蘿生(こけむ)せる松の柯(えだ)を折り取りて遣はしし時に、額田王の奉(たてまつ)り入れたる歌」と題された一首です。直前の歌が天武天皇八(六七九)年の吉野行幸に同行していたとされる弓削皇子(ゆげのみこ)との贈答歌であることから、この歌も、吉野にいる弓削皇子から都にいる額田王へ松の枝が贈られてきた際の歌と考えられています。
 「み吉野」の「み」は吉野の神聖さを表現する言葉といえ、ほかにも「み熊野」などの例があります。また、「玉松が枝」の「玉」も、美しい、立派だ、という意味で「松が枝」を讃美する言葉です。
 そんな吉野の立派な松の枝が「おことばを持って通って来る」とは、松の枝を擬人化したおもしろい言い方です。実際に松の枝が何かしゃべったわけではないでしょうが、何かを雄弁に伝えていた可能性が考えられます。
 手掛かりとなるのは、弓削皇子が「蘿生せる松の柯を折り取りて遣」わしたという題の記述です。
 平安時代の辞書である『和名類聚抄』(わみょうるいじゅうしょう)には「松蘿」はサルオガセのことだと記されています。サルオガセとは松などに着生する、地衣類(ちいるい)という菌類と藻類の共生生物です。一見するとコケ植物のように見えることから、マツノコケとも呼ばれます。一方、中国最古の詩集である『詩経』(しきょう)では、「蘿」が一族が和合して繁栄する象徴として詠まれています。
 この歌は、額田王が六十歳を過ぎた頃の作です。四十歳以上も年下の弓削皇子は、『詩経』を踏まえて額田王に「蘿生せる松の柯」を贈ることで、彼女の長寿と繁栄を言祝(ことほ)いだのだと指摘されています。中国文学にも通じていた二人ならではの、機転の利いたやり取りだったといえそうです。
(本文 万葉文化館 井上さやか)

蘿生せる松の柯
万葉ちゃんのつぶやき
奈良の豊かな自然を守るために
 県内には多くの動植物が生息・生育しています。今回紹介する歌にも松が出てきますが、「奈良県版レッドデータブック2016改訂版」(有料)では、4種のマツ科の植物が絶滅危惧種に選定されています。
 県では、「奈良県希少野生動植物の保護に関する条例」に基づく保護管理事業の実施やレッドデータブックなどの作成による普及啓発を通じて、希少な野生動植物を保護し、豊かな自然を次の世代に引き継ぐための取り組みを進めています。
大切にしたい奈良県の野生動植物
県景観・自然環境課 奈良県
電話 0742-27-8757
※「県民だより奈良」は県内の各家庭にお届けしています。
 市町村窓口、県の施設などにも配置しています。
※点字と声による「県民だより奈良」も発行していますので、必要な方は県広報広聴課へご連絡ください。
 県では、経費削減のために、「県民だより奈良」の裏表紙に有料広告を掲載しています。
 広告の申込・お問い合わせは、株式会社キョウエイアドインターナショナル大阪支社(TEL:06-4797-8251)まで

お問い合わせ

広報広聴課
〒 630-8501 奈良市登大路町30
報道係 TEL : 0742-27-8325
広報制作係 TEL : 0742-27-8326 / 
FAX : 0742-22-6904
デジタル広報係 TEL : 0742-27-8056
県民相談広聴係 TEL : 0742-27-8327
相談ならダイヤル TEL : 0742-27-1100

ナラプラスバナー
   ↑
スマホアプリ「ナラプラス」でも電子書籍版がご覧になれます。
詳しくはこちら

マチイロロゴ画像
   ↑
スマホアプリ「マチイロ」でも電子書籍版がご覧になれます。
詳しくはこちら