はじめての万葉集

県民だより奈良
2021年3月号

はじめての万葉集
【vol.83】
風(かぜ)をだに 恋(こ)ふるは羨(とも)し 風(かぜ)をだに
来(こ)むとし待(ま)たば 何(なに)か嘆(なげ)かむ
鏡王女(かがみのおおきみ) 巻四 (四八九番歌)
あなたが風だけにせよ恋うているのは羨ましいこと。せめて風だけでも
来るかと思って待てるのなら、何を嘆くことがありましょう。
鏡王女の出自

 この歌は、額田王(ぬかたのおおきみ)が天智天皇を思って作った歌(巻四・四八八番歌)に鏡王女が唱和した相聞歌(互いに贈答する歌、恋の歌)です。鏡王女は額田王と同じく天智天皇の後宮に仕え、後に藤原鎌足(ふじわらのかまたり)の正妻となった人物で、『万葉集』巻二の「相聞」の部には彼女が天智天皇(九二番歌)、藤原鎌足(九三番歌)ととり交わした歌が収められています。額田王の歌とこの歌は共に秋の風を詠んだ名歌として知られたようで、巻八の「秋の相聞」の部にもこの両歌が重出します(一六〇六・一六〇七番歌)。
 鏡王女の出自については、この歌などを根拠に額田王の姉妹とみる説が古くからありますが、確実とは言えません。鏡王女は他の史料では「鏡姫王」「鏡女王」とも記され、天皇の血を引く女性です。天皇や皇族の陵墓を列挙する『延喜式(えんぎしき)』(諸陵寮式(しょりょうりょうしき))には、舒明(じょめい)天皇の山陵である押坂(おしさか)陵の域内に鏡女王の押坂墓が所在すると書かれており、鏡女王は舒明天皇の近縁者と考えられます。最近、奈良大学の吉川敏子教授は「鏡女王考」という論文を発表され(『続日本紀研究』四一八号、二〇一九年)、鏡女王は天智・天武両天皇の異母兄にあたる古人大兄皇子(ふるひとのおおえのみこ)の子であるとする説を唱えられました。古人大兄皇子は舒明天皇と蘇我氏の女性との間の子で、中大兄皇子(なかのおおえのみこ)(後の天智天皇)とは皇位継承をめぐって競合関係にあり、六四五年に謀反の疑いにより中大兄によって誅殺(ちゅうさつ)されました。中大兄は同じく古人大兄の子である倭姫王(やまとのおおきみ)もキサキとしており、古人大兄の女子が中大兄への恨みを抱いたまま他の王族と結婚するのを避けるため、中大兄とこの姉妹の婚姻が成立したと吉川教授は述べられています。六八三年に鏡女王が病に臥(ふ)した際、天武天皇は彼女の家まで自ら見舞いのために出向いており、舒明天皇の孫として最期まで丁重に遇されていたことがわかります。
(本文 万葉文化館 竹内亮)

鏡王女の出自
万葉ちゃんのつぶやき
談山(たんざん)神社(桜井市)
 藤原鎌足を主祭神とする多武峰(とうのみね)の談山神社では、東殿で鏡女王を祀(まつ)っています。現在は縁結びの神様とされ、東殿は「恋神社」とも呼ばれています。毎年六月第二日曜には鏡女王祭が行われます。
 また、談山神社は紅葉の名所としても知られており、四季折々の美しい風景が楽しめます。
談山神社
桜井市多武峰319
電話 0744-49-0001
URL www.tanzan.or.jp
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