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幻の伝統野菜「大和マナ」

 お隣の京都府には「京の伝統野菜」として、「堀川ゴボウ」「加茂ナス」「ミブナ」「満願寺唐辛子」などが、現在でも生産され、消費者に喜ばれています。

 ところが、その京都より歴史の古い奈良県では、「イチゴ」「ナス」「ホウレンソウ」など、特産野菜こそありますが、昔から作り続けられている伝統野菜は、実はそんなにありません。実際、県内の年輩の方に「奈良の伝統野菜を知っていますか」と尋ねても、はっきりした答えはなかなか返ってきません。これからお話しする「大和マナ」は、そうした奈良県の数少ない伝統野菜です。

 「大和マナ」はブラナ科の漬け菜の一種です。古くはナタネと同様に、油を取るために栽培されていたようですが、しだいに野菜として食べられるようになったものです。このまかまには、兵庫県の「丹波菜」、岡山県の「作州小菜」、花茎を食べる「茎立ち菜」などがあります。「大和マナ」はこうした野菜と比べても、特に食味に優れているのです。

 外観はコマツナに近いのですが、小葉の切れ込みが大きく、ちょっと見たところはダイコンの間引き菜のような感じがします。ところが、おひたしにしても、煮炊きにしても、漬け物にしても、独特のまろやかさと歯触りがあり、絶品の品質を誇っています。少しオーバーな言い方をすれば、「野菜の中のフグ」でしょうか。

 その優れた食味から、県が産地育成を図ったこともありましたが、卸売市場や、小売店などの流通機構を経由している間に、葉が黄色くなってしまうといった問題があり、現在では農家の家庭菜園だけで作られ、いわば「幻の野菜」になっていました。

 ところが、最近になって、「道の駅」などに直売所が設けられ、新鮮な野菜を直接消費者に届けることができるようになってきました。こうした状況を受けて、宇陀郡大宇陀町の道の駅「阿騎野宿」の直売所では、平成九年の十二月から十年の一月まで、「大和マナ」が販売され、そのおいしさで消費者を魅了しました。今年も、同じように販売される予定です。地域限定・期間限定の野菜ですが、もし機会があれば、いちど「幻の味」をお楽しみください。

1998年4月

奈良県農業試験場 高原分場 総括研究員 杉本好弘