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植物の生育と温度

 「トマトの生育適温は何度ぐらい?」とよく質問されます。専門書では、25~28℃と記されていることが多いようです。おそらく温度を一定にした実験室でトマトを育てた時に最も生育が良かった温度が適温とされているのでしょう。しかし、自然条件では、一日の温度が一定ということはありえません。通常の晴天日なら、午後2時頃が最も高く、午前6時頃が最も低くなりますが、この間気温は無限に変化し、季節、天候によっても変化のパターンが異なります。

 実際には、日中の気温を夜間よりもやや高めた方が、植物の生育が良くなることが確かめられています。しかし、この場合「生育が良い」というのは、「早く大きくなる」ということで、植物にとっても利用する側にとっても、必ずしも良いこととは限りません。例えば、家庭菜園用の苗を購入する場合の注意点として、「葉と葉の間が短く、茎がしっかりしている」という表現があります。「早く大きくなった」苗は、すくすくと生育しているものの、ちょっとした環境の変化に弱く、良い苗とは言えません。良い苗を作るには、光を十分当てて、温度をあまり高くしすぎないで、じっくり育てることが大切です。苦労知らずにのびのび育った人は「温室育ち」などと呼ばれます。逆境に耐える力を与えるためには、小さなストレスをかけることも、時には必要です。切り花や鉢花などは、花の大きさ、茎の太さ、葉の大きさや着き方など、全体のバランスが商品の良さを決めます。生育を良くするだけでなく、場合によっては「生育を抑える」必要も出てきます。

 1980年代後半にアメリカのミシガン州立大学の研究者たちは、「DIF」という概念を提唱しました。「DIF」とは、「差」を意味する英語のdifferenceの最初の3文字をとって名付けられ、「昼間の温度と夜の温度の差」を表します。植物をすくすくと大きくする場合には、DIFを大きく、つまり、昼の温度を高く、夜の温度を低くします。逆に生育を抑える場合には、DIFを小さくします。極端な場合、夜温と昼温を逆転させ、夜を高温にすると、生育はさらに抑制されます。DIFを使って植物の生育をコントロールする技術の研究は、まだ始まったばかりで、植物の種類や品種ごとに、DIFの程度と植物の生育の程度を調べていく必要があります。しかし、この技術を使うことによって、生育調節(ホルモン)剤に頼らずに、植物の生育をコントロールする事が可能となります。現在は 切り花や鉢花の草丈を調節する技術として様々な研究が行われていますが、今後は質のよい野菜の苗を生産する技術としても広く使われるようになるでしょう。

2001年6月
奈良県農業技術センター 生産技術担当 野菜栽培チーム 
研究員 東井君枝