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「品種」について

コメでは「ささにしき」や「コシヒカリ」、トマトは「桃太郎」、ブドウなら「巨峰」、「マスカット」・・・。コメや野菜、果物等の農産物には「品種」という種類分けがあって、消費者が商品を選ぶ際の重要なチェックポイントのひとつになっています。品種とは動植物を分類するための単位のひとつで、「実用的な形質について、他と明らかに区別できる遺伝的特性を持った栽培生物の集団」です。「実用的」とか「栽培生物」という言葉からもわかるとおり、純粋な分類学の概念というよりは、栽培植物や家畜を、人間が、その利用価値に基づいて分類したものです。

 生物の基本単位が「種」であることはご存じですね。たまに例外もありますが、通常、「種」が異なる個体同士を掛け合わせた場合には子孫ができないということから、「種」については比較的理解しやすいものと思います。「品種」は「種」の下に位置する単位です。動物を例にとると「犬」は「種」で、「コッカースパニエル」や「ブルドッグ」が「品種」になります。異なる犬種同士の子孫は「雑種」と呼ばれますが、両親の組み合わせが何であれ、ひとくくりに「雑種」としか呼ばれません。同じ「シェパード」でも持っている遺伝子はさまざまに異なりますが、なかには限りなく「シェパード」に近いけれどやはり「雑種」、というような犬もいます。分類の根拠はというと、外観などいくつかの項目について、人間が便宜的に定めたものに過ぎません。

 栽培植物の品種も、外観やいくつかの実用的な特性について、遺伝的な同一性を持った集団です。特定の病虫害に抵抗性があるもの、寒さや乾燥に強いもの、食味あるいは収量が優れるもの等、さまざまな特徴ある品種を作り、使い分けることによって、人間は生活を豊かなものに変えてきました。しかし、品種は人間が便宜的に作りあげた集団ですから、品種内の個体は、容易に他のグループと交雑して雑種を作ることができます。これらが入り混じると、品種の特徴や均一性を保つことができなくなるのです。種子を供給する会社や機関では、昆虫の訪花や花粉の飛来による自然交雑を防ぐため、隔離した施設内で栽培したり、ひとつひとつの花に袋を掛けたりして、品種の維持に多大な労力を費やしています。

人々のニーズの変化に対応して、毎年、我が国だけで何百もの新しい品種が生まれますが、利用が減り、維持できなくなった同数の古い品種が消えてゆく運命にあります。野生植物に並ぶ貴重な遺伝資源として、古い品種を保存する国家プロジェクトが各国で進められていますが、目的に見合った十分な労力・コストがかけられていると言うには程遠い現状のようです。

2001年7月
奈良県農業技術センター 生産技術担当 
野菜栽培チーム 総括研究員 信岡 尚