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野菜のセル苗

 セル苗の正式な名称はセル成型苗。欧米ではプラグ苗と呼ばれます。いずれも、一般の方にはなじみの薄い言葉でしょう。通常、園芸店などで売られている野菜や花の苗は、直径が小さいもので四~五センチメートル、大きいもので十センチメートル程度の、ひとつひとつが独立したポットに植えられています。しかし、時には一枚のプラスチック板を成型加工して、小さなポット(セル)が数十個も連なったような容器に入れられた苗を見ることがあります。これがセル苗で、その容器をセルトレイと呼びます。一見すると、土の量が少ないだけのように見えますが、このセル苗の技術は、野菜や花の苗生産にとって革命的ともいえるものだったのです。
 一般に、ポットのような限られた空間で植物を育てると、新鮮な空気や養水分を求めて周囲に伸びた根は、ポットの内壁で遮られて、ポットと土の境界面に、土を抱え込むように網状に巻き始めます。これを根鉢と呼び、根がびっしりと巻いた状態では、苗をポットから抜いても、根鉢に守られて土は崩れません。しかし、この状態がさらに進むと、根は次第に老化し、植物の生長は止まってしまいます。鉢花の植え替えの際にわざわざ根を切ったり根鉢をほぐすのは、根鉢を壊して新たな発根を促すためです。野菜苗でも、大きなポットで育苗し、根鉢ができる前に畑に定植するのが従来の常識でした。ところが、大きな苗では定植作業が重労働である上に、輸送が困難で、育苗にも広い面積を必要とします。
 セル苗の技術は逆転の発想です。ポットをさらに小さくすることによって、根鉢の形成を逆に早めたのです。根鉢が形成された苗は、ポットから容易に抜き取ることができます。畑の土を耕耘して軟らかくしておけば、根鉢の部分を土の中に押し込むだけで、簡単に植えることが可能です。電気器具のプラグを差し込むように簡単に植え付けられるのが「プラグ苗」とも呼ばれる由縁です。
 もちろん、根鉢の形成は新しい根の伸長を抑制するので、植物にとって好ましくないことは確かです。しかし、根を傷めずに移植できるため、植え傷みが少ないという長所もあります。なにより、大量の苗を、手間をかけず安価に生産できることは大きな魅力です。
 レタスやキャベツなどの葉菜類ではセル苗用の定植機が開発され、セルトレイから苗を抜き取って植え付けるまでの作業を自動的に行うことができるようになりました。トレイへの土入れや播種作業も自動化され、従来に比べて野菜生産における省力化は着実に進みつつあります。

写真 )キャベツのセル苗とさまざまなトレイ

2004年11月
奈良県農業技術センター
普及技術課 専門技術員 信岡 尚