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おがくずで育つイチゴの苗

 「植物を有機物だけで育てる」と書くと有機栽培の話かと思われそうですが、今回は病気の感染を防ぐために、土を使わず、おがくずでイチゴ苗を育てるという、ちょっとめずらしい栽培方法についてのお話です。

 イチゴには萎黄(いおう)病やたんそ病といった恐ろしい病気があり、これらの病原菌は土の中に潜んで感染の機会をうかがっています。イチゴ栽培では栄養繁殖で苗を増やすため、菌に汚染された畑で苗を育てると、親苗から子苗へと病気が次々に広がってしまいます。最も有効な対策は、地面と切り離し、泥跳ねなどが届かない場所で育苗することです。たとえば、鉄パイプや板で棚状のベンチを作り、その上に無病の培地(土や土の代わりになる資材)を載せて苗を育てると、病気に感染する危険性はかなり小さくなります。しかし、培地は一作ごとに新しいものと交換することが必要なため、無菌で軽く、かつ安価に手に入れられるものが望ましいのです。

 一方、林業の盛んな奈良県には多くの製材所があり、そこからは膨大な量のおがくずが排出されています。最初は鉢花栽培の土におがくずを混ぜて、商品を軽量化することが試みられました。しかし、生のおがくず(熟成されていないもの)は精油成分など植物の根に有害な物質を含み、さらに土中での分解過程で、重要な肥料成分の窒素を植物から横取りするのです。このため、培地として用いるためには、堆肥を作るのと同じように、あらかじめ窒素と水を加えて数ヶ月間堆積し、熟成する必要がありました。

 無菌で軽く安価なことから、おがくずはイチゴのベンチ育苗の培地にも使われ始めましたが、当初はわざわざ熟成されたものが用いられていました。しかし、その後、水と肥料を十分に与えれば、イチゴ苗だけは生のおがくずでも問題なく栽培できることが分かってきたのです。そうなると、面倒な熟成過程は不要です。

 今では、製材所から運び出したおがくずを直接ベンチに載せ、一週間ほども水になじませると、イチゴの親苗の定植が始められます。このような生のおがくずを用いた作物の栽培は、奈良県のイチゴ育苗以外には例を見ないものです。現在、育苗ベンチやベッド(脚のないタイプ)の総延長は約15km、奈良県のイチゴ苗の三分の一近くがおがくずを主体とする培地で栽培され、さらに増え続けています。



2005年11月
農業技術センター
普及技術課  特産物振興班 専門技術員 信岡 尚