注意 過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。

里山が育てるササユリ

 ササユリは本州の中部以西に生育する可憐な植物で、6月から7月にかけて開花します。花は淡いピンク色で、香りもよく、姿も可憐なため人気のある野生のゆりです。名前の由来は、葉が笹(ささ)に似ていることや、笹原に自生しているために名付けられたものと思われます。

 本来、ササユリは人が住む集落近くの里山に自生し、人の手が入ることにより守り育てられてきた里山の植物です。

 残念なことに、最近めっきりその姿を見かけなくなりました。人為的な乱獲はべつにして、燃料革命以後、里山の自然が崩壊したことが大きな原因と考えられます。山菜摘みや木の実拾い、さらに薪や落ち葉集めなど、里山は人の生活と密接に関係し、利用されることによりその自然が守られてきました。このような人による無意識の施業がササユリの育ち易い環境を守ってきたといっても過言ではありません。

 里山では見かけなくなったササユリですが、今ではむしろスギ、ヒノキの人工林で分布を広げています。伐採後、山を奇麗にして植林しまが、そのときササユリの種子が風で運ばれ定着し、発芽して苗が生育を始めます。ちょうど5~6年生の人工林で花を咲かせたササユリを見かけるようになります。その後5年程度は同じ場所で生育を続けます。植林後10年程度は下草刈り等の施業を行うため、ササユリの生育にとって好都合な環境が保たれるためと思われます。植林した木が大きくなると林の内部のササユリは姿を消し、光が十分に当たる林縁に追いやられます。可憐で弱々しいササユリですが、このようにしたたかな一面も持ち合わせています。

 農業技術センターでは、少なくなってきたササユリを増やすための試みを行っています。ただたんに増やし植えるだけでは、ササユリが咲き誇る里山の景観は戻りません。トンボやチョウが飛び交い、樹液にカブトムシやクワガタムシが集まる里山の自然を守り育てることこそが、里山でササユリを回復させる最も大きな力になると思います。

 うつむき加減に咲くササユリの姿は、「里山の自然をたいせつにしてください」と、私たちに語りかけているように見えます。

1997年6月

奈良県農業技術センター 生産技術担当 
統括主任研究員 荒井 滋