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キクの話

 各地で菊花展が催される季節がやってきました。キクと一口にいいましても、種類は豊富で菊花展に出品されるような大菊タイプのものもあれば、生け花やお葬式に使われる切り花タイプのキク、鉢物や花壇に使うポットマムと呼ばれるスプレー系のわい性のキクなど様々です。これだけ、日本人の生活に定着しているキクですが、その起源はいろんな説があるものの、はっきりとわかっていません。日本へのキクの伝来についても、仁徳天皇の時代に百済(朝鮮)から渡ってきたとする説や、天平時代に中国より伝来したのではとする説など定かではないようです。

 当県でも切り花用の栽培ギクは主に葛城・下市地域で輪ギクが、平群地域で小ギクの栽培が行われています。キク栽培の方法、品種も日々進歩してきており、品種では無側枝性ギクと呼ばれるものも登場してきました。このタイプのキクは、側枝の萌芽が少ない品種で、輪ギク生産を行うにあたり10aあたり160~480時間(全作業時間の約2割にあたります)かかる摘芽・摘蕾作業が約10分の1に短縮可能になります。

反面、芽が出にくい性質をもつため、摘心後の不萌芽株の発生など従来のキクにはなかったマイナス面もありますが、これについては、解明に向けて現在研究中です。萌芽性を自在に制御できるようになれば、画期的なキクと言えるでしょう。 また、栽培方法に関しても、最近では機械によるキク苗の本圃への定植が試み始められています。この方法は、従来のように苗床や地床にキクの穂を挿し、発根した苗を掘り上げて手植えを行うのではなく、セルトレイとよばれる数百のセルを有する幅約30cm、長さ約60cm、深さ約4cmのプラスチック成型トレイを用いて育苗した苗を田植機のように植えて行きます。これにより、10aあたり2時間程度で植え付けが可能になるほか、移植による根の傷みも軽減できます。

 何気なく店頭に並んでいるキクですが、挿し芽から収穫まで約5ヶ月を要し、その生産過程においては高品質、低コスト、省力化などにむけて様々な技術の改良が積み重ねられています。一方、菊花展に出品されるキクなどは、生産用とはまた違ったこだわりや愛着をもって栽培されていることでしょう。キクは数多くある花の中で、昔から私達の生活に深く浸透している花の代表選手と言えるのではないでしょうか。

2000年10月
奈良県農業技術センター 生産技術担当 花き栽培チーム
主任研究員 藤井祐子