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キクの開花と幼若性

 日本の秋を代表する花のひとつ、キク。奈良県は、関西の代表的な切花キクの産地です。平群、當麻、新庄、下市など、県全体では百ヘクタール以上の生産が行われています。産地では数百の品種を組み合わせて、五~十二月に途切れることなくキクを収穫します。

 キクの品種は、外で自然開花する時期によって、ほぼ四つに分けられます。四~六月に咲く夏ギク型、七~九月に咲く夏秋ギク型、十~十一月に咲く秋ギク型、十二月に咲く寒ギク型です。しかし実際の切り花生産では、必ずしもこの時期のままではありません。品種の持つ生態を十分に利用することによって、開花時期を前後させながら栽培されています。

 県内での生産も多く、一般家庭でも栽培されているのは、夏秋ギク型と秋ギク型です。これらの品種では、春に挿し芽苗を植え付け、夏まで草丈が伸び、夏至を過ぎてくると、日の長さ(日長時間)が短くなるのを感じて花を咲かせます。日長時間が一定時間より、短くなると花芽を作る性質を短日性といい、これを応用した栽培が電照栽培です。夜中に照明を行うことで、秋の訪れをキクに感じさせないようにして、開花を遅らせる栽培方法です。

 では逆に、春に苗を植えて、すぐに日長を短くしたらどうなるでしょうか。秋の訪れが早く来たと思って、キクは咲くのでしょうか。答えは、一定の大きさになるまで花は咲きません。特に七,八月頃に咲くキクでは、自然に咲く時期とほとんど変わらない時期に、同じくらいの大きさでしか咲きません。これは、花芽を作るために外的な条件(短日)だけでなく、日長を感じる内面的な条件が整っていない状態(幼若相とよばれる)が、ひとつの発達段階として必要だからだと考えられています。子供の状態を順調に過ぎてしまわないと、大人としての開花ができないということなのです。子供の状態(幼若相)についての、メカニズムは未だ十分には解明されていませんが、キクでは春から夏の高温が、この幼若相を終えるために必要だと考えられています。

 こうした性質は多くの植物でも見られ、「桃栗三年柿八年」のたとえに出てくる期間も、この幼若性で説明されています。また、ツタやヒイラギなど、葉の形が変化するために幼若期を外から観察できる植物もあります(図)。しかし残念ながらキクでは、外観から判断できません。その上、苗が作られるまでの栽培条件も幼若性を左右するため、この測定方法は未だに確立されていません。いわば若さを測る方法がないのです。またキクに限らず根元から刈り込むことによって、多くの植物で若返りが起こることも知られています。人間では、若さを測るための健康診断は種々ありますが、「本当の若さ」が何なのかは、その人自身しかわからないのでしょうね。

2001年10月
奈良県農業技術センター 生産技術担当 
花き栽培チーム 主任研究員 仲 照史