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吉野の日干番茶

奈良県のお茶は月ヶ瀬村などの大和高原地域と大淀町を中心とした吉野地域で主に生産されています。吉野のお茶については、元禄時代にすでに吉野川流域から山間地帯まで相当広範囲に茶が栽培されていたとの記録もあり、大変歴史のある産地です。しかし、その当時の茶作りは蒸して乾かす程度の簡易なものであったようです。そこへ偶然にも茶摘み籠の製造とその行商をしていた籠屋忠治郎という人がやってきて、現在に通じる煎茶の製法や茶の栽培法を伝授、指導したそうです。このことが今日の吉野の茶の商業的生産の始まりかと思われます。大淀町中増の安養寺に墓碑が残っており、忠治郎の吉野の茶業に残した影響がいかに大きいかがわかります。ここで言う煎茶の製法とは、収穫した茶葉を蒸し、その後適度な圧力を茶葉に加えながら(お茶を揉むといいます)、温風で乾燥させていくものです。現在では6種類以上もの機械を使って収穫した茶葉をお茶に仕上げていきます。

 さて、忠治郎以前の蒸して乾かすというお茶作りはどうなってしまったのでしょうか?実は現在でも県内の一部地域では自家用として作られています。また、天日干し番茶、嘉兵衛番茶という商品名で吉野地域で製造販売しているところもあります。製造時期は梅雨から夏にかけてです。摘み取った茶葉をよく蒸し、その後長ければ1日以上天日でしっかりと乾燥させ、その後焙じてできあがりとなります。揉まずに天日で乾燥させるので大量生産はできないのですが、機械で揉みながら乾燥させるものに比べると香りが高く、渋味が少なくあっさりとした味わいになります。また、写真のように葉の形がそのまま残っていることもこの製法の特長です。飲み方としては急須に茶葉を入れて熱湯をさすか、沸騰したお湯に茶葉を入れて煮出します。このようなお茶を日干番茶と呼び、煎茶の製法ができる以前からあるお茶の簡易な飲用方法のひとつです。南和地域の道の駅などで販売されていますので、ぜひ一度ご賞味ください。
2002.9
奈良県農業技術センター 茶業振興センター 
主任研究員 宮本大輔