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カブトムシの繁殖戦略

 カブトムシが住んでいる場所を聞かれた、とある都会の小学生が、「デパート」と答えた、という話が話題になったことがありました。幸いなことに奈良県は、比較的都市化が進んだ地域でも少し足を伸ばせばカブトムシの住んでいるような雑木林がありますので、デパートでしかカブトムシを見た事がない小学生は少ないのではないでしょうか。

 さて、カブトムシのオスの、あの堂々としたツノは、餌場やメスを奪い合うケンカに使われると言われています。そして、体の大きなオスはより大きなツノを持ち、より良い餌場やたくさんのメスを手に入れることができると考えられています。つまり、「大きく育った強いオスが成功する」という訳です。しかしそうとばかりは言えない研究データもあります。

 昔、ある昆虫学者が、たくさんのカブトムシのオスを集めてきてそのツノの長さを計り、長さの階級別に分けてみました。体の大きさは、平均的な中くらいの大きさのオスが多かったので、もしカブトムシのツノの大きさが体の大きさに単純に比例しているならば、ツノの大きさが「中くらい」のグループが最も多くなるに違いありません。しかし実際に調べてみると、平均より明らかに「大きい」ツノを持つグループと「小さい」グループのオスばかりで、「中くらい」のオスはなぜか少なかったのです。なぜこんな奇妙なことが起きたのでしょうか?

 さらに詳しく調査を進めると、「小さい」オスは真夜中前の比較的早い時間から活動しているのに対し、「大きい」オスは明け方近くの遅い時間に活動を始めることが分かりました。ここからこの学者は次のように考えました。ケンカに弱い「小さい」オスは、「大きい」オスとマトモにケンカすると勝ち目はありません。そこで「大きな」オスがまだ眠っている早い時間に起き出して、先に餌を食べ、さっさとメスと交尾を済ませることによって、「大きな」オスとぶつかることを避けます。これに対して「大きな」オスはケンカに強いので、慌てて早起きする必要がなく、遅い時間にのんびり起きてきて、力ずくで餌場やメスを独り占めしてしまうという訳です。

 つまりカブトムシのオスの中には、ケンカに強いことで成功する「大きな」オスと「すばやく立ち回る」ことで成功する「小さな」オスの2つのタイプが存在していたのです。このような、ケンカに弱い代わりに「すばやく立ち回る」ことで成功するタイプは他の動物にも広く知られており、「スニーカー」と呼ばれています。
 大きくて強いだけが能じゃない。自然は小さくて弱いものにも、ちゃんと生きていく術を与えているのです。

2001年5月
奈良県農業技術センター 環境保全担当 虫害防除チーム 
主任研究員 井村岳男