注意 過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。

生きた植物に生えるカビの話

 「カビが生える」というと、皆さんは何を思い浮かべますか。風呂場や流しに生える黒いカビ、または古いパンやお餅に生える赤や青のカビでしょうか。これらのカビは、湿度が高く、栄養分のある場所に生える性質があります。このほか動植物の死がいにも、多くのカビが生えてきます。ところが動物でも植物でも、生きている間はほとんどカビが生えません。これは生き物がもともとカビから身を守る仕組み(抵抗性)を持っているためです。

 ところで私たちの足にできる「水虫」、これは白せん菌と呼ばれるカビが皮ふに生えることにより起こります。このカビは人間の皮ふの持つカビから身を守る仕組みをかいくぐって皮ふに生える特別な能力を持っていると考えられます。ですから足を不潔にしていると水虫はできますが、ほかのカビは生えてこないのです。
 
 植物ではどうでしょうか。植物も生きているうちはカビに対する抵抗性を持っています。ところがいもち病菌、うどんこ病菌、さび病菌、疫病菌などのカビは、生きている植物から栄養を吸収して生きています。植物病原糸状菌と呼ばれるこれらのカビは、植物の抵抗性を打ち破る特殊能力を身につけているといえるでしょう。

 それでは生きている植物がこれらのカビ(病原糸状菌)に覆われてしまうかというと、そんなことはありません。カビに対して植物の持つ抵抗性としては、葉や茎などの表面の固さという物理的な仕組みや、抗菌物質などの化学的な仕組みなどがあります。病原糸状菌といえどもこれらの抵抗性をいつでもすべて打ち破れるわけではなく、たった一つの要因にでもじゃまされれば病気を起こすことができません。つまり病気が発生するためには、植物の抵抗性が弱っていたり、病原菌の生育に適した条件になっていることが必要だということです。

 「花や野菜が病気になったので、よく効く薬が欲しい」という人がいます。植物の病気の薬(農薬)のほとんどはカビを抑える薬ですが、植物に生えたカビをどれだけ薬で抑えたとしても、肥料や水のやり過ぎなどで軟弱に育ち抵抗力が弱ってしまっていたり、湿気が高くカビの生育しやすい条件であったりすれば、感染の機会は次々とやってきます。ですから植物の病気を防ぐためには、よく効く薬に頼るばかりではなく、その植物に合わせた施肥や水やりをし、日当たりや風通しにも注意し、枯れた葉や傷んだ実は早めに取り除くなど、病気の出にくい育て方をすることが大切なのです。 
2002.7
奈良県農業技術センター 環境保全担当 
病害防除チーム 研究員 藤田圭二