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土壌微生物の競争から生まれた薬・・・抗生物質

 皆さんはペニシリンやストレプトマイシンと言う薬の名前を聞かれたことがあるでしょうか。これらの薬は抗生物質と呼ばれ、現代の医療にはなくてはならない薬で、農薬にも使われています。抗生物質を生産するのはすべて、土壌を住みかとする土壌微生物で、なかでも放線菌とよばれる微生物は、今までに発見された抗生物質の約70%をつくる最大のグループです。抗生物質には微生物の増殖を抑える働きがありますが、なぜ土壌微生物だけが自分以外の微生物をやっつける物質を作るのでしょうか。

土の中にはたくさんの微生物が住んでいます。普通の土1gからは、億を越える数の細菌や放線菌などの微生物が分離されます。土の中は栄養分に乏しいため、植物の根から出る栄養分をめぐっていろいろな微生物が競争をくりひろげています。まわりの微生物をやっつけられる抗生物質をつくることができれば、その微生物は増殖に有利でしょう。しかし抗生物質がつくられるのは、その菌が活発に増殖しているときではなく、餌を食べ尽くし増殖を止め休眠に入るときです。おそらく休眠中が最も他の微生物に攻撃されやすいため、抗生物質で敵の攻撃から身を守っていると考えられています。

それでは抗生物質を生産する菌は、自分の生産する抗生物質にやられないのでしょうか。抗生物質生産菌は自分の生産する抗生物質に対し自家中毒を起こさないよう耐性機構を2重3重に持っています。つまり抗生物質生産菌は抗生物質という鉾(ほこ)と、耐性機構という盾(たて)を持っているのです。病原菌の中には抗生物質に耐性を獲得する菌も現れます。これが耐性菌と呼ばれ、医療や植物の病害防除で問題となっています。ともかく、土の中にはいろいろな種類の微生物が住んでおり、様々な物質をつくっています。土はどこにでもあり、価値はないように見えますが、新しい医薬・農薬の宝庫なのです。

わずか1gの土のどこに住んでいるのか疑問に思われるでしょうが、土1gは細砂であるとすれば9000万個、粘土であるとすれば900億個の粒子から成り立っています。(その表面積は粒子が単に球形と仮定しても、細砂の場合1130cm2 、粘土の場合1.13m2 となります。)

 

2002.9
奈良県農業技術センター 
環境保全担当 害虫防除チーム 
総括研究員 堀本圭一