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農薬の歴史について

 人間が農業をはじめたのは約1万年前とされていますが、今日まで病害虫や雑草に悩まされ続けています。それらを防除するために、農薬はとても有用な手段です。

 日本での農薬の始まりは、江戸時代の寛文年間(1670年頃)に水稲のウンカ類防除に使用した鯨油だといわれています。油を水田に注ぎ、水面上に油膜を作り、その上に害虫をはらい落として、害虫を窒息させる方法でした。それ以前は、手で虫を取り除くか、悪虫の退散を祈る集団呪法の「虫送り」、神社の「虫除け札」をつけて、神仏に祈るしか方法はありませんでした。

 明治時代になって、現在の農薬が登場します。最初は、石灰硫黄合剤がカイガラムシや病気の防除に使用されました。その後、天然物の除虫菊粉、殺菌剤のボルドー液などの農薬が登場し、大正時代には、硫酸ニコチンやデリス剤などの天然物由来のものや無機化合物が主流でした。これら農薬の登場により、それまで困難とされていた病害虫防除ができ、農産物の生産に大きく寄与しました。

 昭和に入ると戦争のため農薬開発は停滞しましたが、第二次世界大戦後、外国からパラチオンやBHC、DDT(共に現在は禁止農薬)などの有機合成農薬が入り、農産物の増産に大きく貢献しました。またDDTは農薬としてよりも、シラミやノミを駆除する衛生害虫用として非常に活躍しました。昭和30年代以降から、日本でも農薬の開発・研究が積極的に推進され、現在まで150以上の農薬が開発されています。
 
 戦後の初期は食料増産の時代であったため、効果に重点がおかれ、人や環境に対する安全性の欠けた薬剤もあり、昭和40年以降に農薬毒性が世界的な社会問題となりました。この時の悪いイメージをいまだに引きずっており、何か問題がでると農薬が疑われることが多かったのです。

 しかし、近年開発されている農薬は、1.毒性が低く、2.分解が早く環境への影響が少なく、3.目的とする病害虫、雑草だけに効果があります(選択性がある)。また、以前の反省を踏まえて、莫大な労力と経費を使って、医薬品並みの毒性試験、農作物に対する残留性試験、環境に対する影響試験を実施し、安全性が確保されたものしか農薬として登録されません。初期に使用されていた農薬の中には確かに危険なものもありましたが、現在登録されている農薬は、正しく使用するかぎり、科学的に安全性は確保されています。

 昨年の無登録農薬問題により農薬取締法が改正され、使用者に対する責任が厳しくなっています。農薬の使用基準を必ず守って使用しましょう。      

2003.12
奈良県農業技術センター 土壌水質保全チーム 
主任研究員 西川 学