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害虫はどこまで飛ぶの

 ハスモンヨトウは大豆やイモ,キャベツ,白菜など多くの野菜を幼虫が食害する害虫で,殺虫剤に抵抗性があるため難防除害虫です.この紙面でも何度か登場している害虫です.およそ30年前に本種の性フェロモン(性フェロモンとは,雄が誘われる雌の出す微量の臭い物質)が合成されるようになってから,フェロモントラップによる調査でその生態が明らかにされるようになりました。

 多発生年には,5月上旬から発生し,第1世代のピークは6月中下旬で,第2世代は7月下旬,第3世代は8月下旬となり,それ以降は増えすぎてピークが分からなくなるほど誘殺されるようになり,ダイズ,キャベツなどの秋冬野菜で大きな被害を受けることになります.ダイズは6月中旬に播種しますが,ダイズの葉が食害されるのは第3世代の8月下旬頃からで,9月の秋雨や台風の後に突然に大量発生があり,被害が急増します.これらの大量のハスモンヨトウがどこからやって来るのか分かりません。

 私たちが害虫防除技術の開発をしている時に,害虫がどのように移動したかを調査するために,いつ、どこで、誰が放したかの印を付けます。このことをマーキングと言います。大型動物では電波発信機を付けたり、大型の蝶なら羽根にペンで書き込む事例がありますが、小型の昆虫で大変に難しいことです。昆虫の飛翔や摂食、交尾などの行動に影響しない方法を見つける必要があります。

 比較的に大きなハスモンヨトウは飛ぶ能力が高く,10キロくらいは飛ぶと言われていました.それを明らかにするために,兵庫県の農業技術センターの研究員が2年前に淡路島で数千頭のハスモンヨトウ雄に蛍光色でマーキングして放したところ,淡路島から30キロくらい離れた加古川に置いたフェロモントラップにマーキングした雄が翌日に誘殺されました.昨年は,淡路島と神戸をつなぐ明石海峡大橋にフェロモントラップを置くと、調査期間中に二千頭余りが捕まり,本州と淡路島の両方からハスモンヨトウが飛んできていることが分かりました.どうもハスモンヨトウは,瀬戸内海の上を頻繁に行き来しているらしいとのことです。

 昨年の夏,イネの葉を白く食害するコブノメイガが大発生し、県南部の80%の水田で食害が見られました.体長8mmの小さな成虫は,中国大陸から飛来するらしいことが分かっています.梅雨前線が日本の上に横たわる6月下旬に雨とともにやってくるのです.昨年は奈良県だけでなく,大阪,和歌山,四国,九州でも多発生しました.小さな昆虫も風に乗って大旅行をしているらしいのですが,この虫にマーキングする手段が見つかっていないので,未だその証明はされていません。
2004.3
奈良県農業技術センター 害虫防除チーム 総括研究員 福井俊男