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小さな虫たちの話 ~タマゴコバチが見ている世界~ 

 皆さんは、世界で一番小さい昆虫をご存じですか?これからの季節に増えてくる、あの嫌な蚊も結構小さいですが、もっと小さい虫がいます。タマゴコバチ類と呼ばれる、昆虫の卵に寄生するハチの仲間は、体の大きさが0.5mmくらいで、ケシつぶの半分くらいしかありません(写真)。この虫は皆さんの身近にふつうに棲息していますが、余りにも小さいので、生きて活動しているものを見ることはまずないと思います。小さいガラスビンの中で飼育してみると、羽化してきた成虫はなにやらモヤモヤとしたホコリのようなものが舞っているようにしか見えません。こんな小さなハチでも、顕微鏡で拡大してみると、立派なハチの姿をしているのですから驚きです。

 このタマゴコバチ類の仲間は世界中から700種類ほど報告されています。その中でも1997年にアメリカで見つかった、チャタテムシという虫の卵に寄生するタマゴコバチは、最も小さい個体の体長が0.14mm程度で、これが記録されている中では世界で一番小さい昆虫です。0.14mmの虫が見ている世界がどんなものか想像してみましょう。試しに、この虫を人間と同じくらいの大きさに拡大してみると、直径わずか1.5mmの砂粒が20mの巨大な岩石になります。人間はどうなるかというと、なんと身長23kmの巨人になってしまいます。「雲を突く大男」という言葉がありますが、この巨人は雲を突き抜けて、世界最高峰のエベレストを3つ重ねたくらいの大きさになります。さて、今度は皆さんがこの巨人になってみましょう。高度1万メートルを飛ぶジャンボジェット機は、なんと腰の辺りを飛んでいるショウジョバエくらいになってしまいます。このショウジョウバエジェット機の乗客が、さっきのタマゴコバチです。何となく感じがつかめたでしょうか?

 さてこんな小さなタマゴコバチの仲間が、実は農作物の害虫の卵を食べてくれる天敵として、世界41カ国で70種類以上が利用されています。特に利用が多い作物はトウモロコシやサトウキビで、主にチョウやガの卵に寄生するものが使われています。日本でも最近実用化に向けた研究が進んでおり、スイートコーンを食べるアワノメイガやキャベツの葉を食べるコナガを退治するための試験が行われています。世界で一番小さな虫たちが、環境と調和した新しい農業を導く可能性を秘めているのかも知れません。
 
タマゴコバチ
 写真 スズメガの卵に寄生していたタマゴコバチの成虫(右下の線は髪の毛)
2004年6月
奈良県農業技術センター
環境保全担当 虫害防除チーム 主任研究員 井村岳男