注意 過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。

薬剤耐性菌の話

みなさん「耐性菌」とか「薬剤耐性菌」といった言葉を聞かれたことがあるでしょうか?以前、病院でMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の院内感染が問題になり、新聞やテレビで報道されたので、覚えている方もあるかと思います。耐性菌が発生すると今まで効果のあった薬がまったく効かなくなってしまい、その後の対応次第で病気が蔓延してしまうことがあります。これは、人間の薬に限ったことではなく、植物の病気を治す農薬についても同じことが言えます。それでは、耐性菌はなぜ発生してしまうのでしょうか?

 植物に病気を起こす細菌(バクテリア)や糸状菌(カビ)は、植物から栄養を摂取して生活しています。このとき、バクテリアは細胞分裂を繰り返して驚異的な数に増殖し、カビは無数の胞子を作ります。動物や昆虫よりも、はるかに速く、そして多くの子孫を生み出す能力が備わっているのです。これら多くの個体の中にはある特殊な性質を持った個体が生まれることがあり、これを突然変異と言います。突然変異が自然に起こる確率は、1万分の1から10万分の1個と、とても低いのですが、驚異的な増殖能力を持つバクテリアやカビにとっては、それほど珍しくないことなのです。その特殊な性質がたまたま、ある農薬に強い性質だった場合には、もしその農薬を続けて使うと、耐性菌だけが生き残って、増殖するために農薬が効かなくなるのです。突然変異は病原菌にとって環境に適応する能力の一つと考えられ、菌が生き残るため身に付けた能力と言えますが、農家にとってはとてもやっかいな現象なのです。

 近年開発されている農薬は人や動物への毒性が低く、環境への残留や天敵などへの影響も少なく、安全性や選択性の高いものが主流を占めています。また、病気の予防効果だけでなく高い治療効果を持った新剤も開発されていますが、このような効果の高い剤ほど、耐性菌が発生しやすい傾向があります。これまで県内では、ナスやトマトの果実を腐らす灰色かび病、イチゴに発生するうどんこ病や炭そ病、米不作の原因となるいもち病などで耐性菌を確認しています。ある農薬が良く効くからといって連用してしまうと、かえってその薬の寿命を短くする結果になるのです。薬剤散布時には耐性菌が発生しないよう同じ有効成分の入ったものや同じ作用機作の農薬を何回もくり返して使用しないように注意し、何よりも、病原菌が増殖しにくい環境で農作物を栽培することが大切です。

                  イチゴうどんこ病                             イチゴ栽培風景            
2006年3月
奈良県農業技術センター 
環境保全担当 病害防除チーム 主任研究員 平山喜彦