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ソフト農薬と輪作 -持続的生産のために-

 ソフト農薬という言葉をお聞きになったことがありますか。いまのところ明確な定義付けがなされておらず市民権を得るのにはまだ時間がかかりそうですが、農作物の病害虫防除の場面では時々聞かれる言葉です。イメージとしては、これまでの皆殺し的な農薬に対する反省を込めた概念ともいえます。

 食糧増産のために、効果が高く比較的安価な農薬が求められ、1~2の化学成分からなる農薬が開発されてきました。そのおかげで省力、低コストでの農作物生産が実現したことは疑いのない事実です。反面、抵抗性、耐性を持った病害虫が出現したり、対象となる病害虫以外にも効いてしまうため、生態系に悪影響を及ぼす事態も生じてきました。これを防ぐため殺虫殺菌成分により病害虫を皆殺しにするのではなく、対象病害虫だけに効果が高い農薬や食品に使用される澱粉などを素材にした農薬、生物由来の農薬等が開発されました。これらをソフト農薬と呼びますが、今後、農薬としての位置づけを得た天敵や微生物を利用した生物農薬などもこの範疇に含まれるでしょう。

 農薬を使わない防除方法、たとえば熱処理やネット被覆などの物理的な方法や、輪作による病害虫の抑制などは耕種的防除技術と呼ばれています。輪作は経験的に古くから行われてきた農法です。異なる種類の作物を順番に組み合わせて作付けすることにより、土壌の改善、病害虫の発生抑制、土壌流亡の防止、雑草抑制などの効果が期待できます。

 輪作作物として秋から春にかけて栽培できるエンバクは春夏野菜の前作として好適で、雑草抑制効果もあります。ダイコンの前作として栽培するとセンチュウ類の被害が減少したり、土壌中の微生物相が豊かになり病害を抑制する効果も報告されています。さらに高原農業技術センターではダイコンの根を食害するキスジノミハムシの被害が軽減されることを発見しました。エンバクにキスジノミハムシを忌避する物質が含まれていることがわかり、現在分析を進めています。複数の要因がありそうなのですが、これらを組み合わせてソフト農薬としても利用できないものかと検討しています。

 輪作とソフト農薬は最近耳にする機会が増えた「スローフード」と考え方が近いかも知れません。ニッポン東京スローフード協会によると、この言葉の由来は、十数年前、イタリアにマクドナルドの1号店が誕生したころに、「ファーストフード」に対する言葉として生まれたそうです。スローフードの「スロー」とは、だらだらと時間をかけて食べようということではなく、ふだん漠然と口に運んでいる食べ物を一度じっくり見つめ直し、質のよい食べ物を守ろうという提案です。これまでの農法を見直し、輪作やソフト農薬により質の高い生産を実現しようという方向と似ているところがあります。

 ソフト農薬は、これまでの農薬に比べると効果の発現に時間がかかり、使用方法もやや複雑にならざるを得ません。これまでよりコストや手間はかかるでしょうが、環境への配慮と持続的な生産が求められている現在こそ、輪作等の耕種的防除技術とソフト農薬を組み合わせた総合的な栽培技術の再検討が必要な時期ではないでしょうか。

2003.10
奈良県農業技術センター 
高原農業振興センター 総括研究員 中野智彦