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英国の農業環境政策

 我が国の水田農業は,雨が多いモンスーン気候の中で形成されてきました。人々は雨を国土につなぎとめ,水田農業を営むと同時に,洪水を防ぐ努力をしてきました。このように,人と自然の関係がはぐくんだ農業は,食料だけではなく,様々な恵みをもたらします。すなわち,水,土など資源の保全,緑の景観,ノスタルジア,教育などアメニティです。しかし,他方で,化学肥料や農薬の使用など,農業には環境に重荷になるという側面もあります。また,荒れ果てた休耕田の増加,無秩序な農地の宅地化は農村景観を悪化させています。このような農業の公共性を考える時,農業生産との関わりにおいて,環境や景観をどのように管理するかは重要な政策課題です。

 このような政策を環境農業政策と呼び,英国では,その適用の長い歴史があります。有名なのはカントリーサイド管理事業です。この事業は,景観・歴史・野生生物的特徴が優れた地域を指定し,優れた特徴の保全に配慮した農業活動に補助金を支払います。適用地域や活動目標は,地域レベルでの話し合いで決定されます。英国には,このような決定を支援する第3者組織がたくさんあり,農業者や地方政府と会話すると同時に,中央政府にアドバイスしています。

 事業の中身ですが,1つは,伝統的土地利用の維持などの土地管理事業です。例えば,食料増産期には,伝統的湿地牧草地が麦などを栽培する畑へと転換されましたが,最近では,伝統的牧草地の保全が推進されています。2つは,農地の中に散歩道を設置するなど,カントリーサイドヘの市民アクセスを堆進する事業です。3つは,生垣,石垣,並木,水路などの資本整備事業です。写真のような,農地の周りの生垣は,食料増産期には取り除かれましたが,最近では,復活が推進されています。

 水田農業の我が国と畑作農業の英国とでは,少し事情が異なります。しかし,グリーン・ツーリズムが盛況なように,農業・農村が提供する環境や景観を維持・増進するというのは先進国共通の課題です。


1999年7月
奈良県農業試験場
企画調整室 主任研究員 藤本高志