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もう1つの農業観

 夏に雨が多いモンスーン気候は、稲作を中心とする日本農業を育みました。
 しかし、先祖の努力は大変なものです。急峻な国土に降った雨は、一度に流れ去ります。人々は、雨を国土につなぎとめ、洪水を防ぐ努力をし、稲を作ってきました。そして、このような人間と自然の関係が、日本人の思想を育んできました。

 このような思想に支えられた農業は、我々に多くの恵みをもたらしました。例えば、人間と自然が、農林業を媒介として創造した半自然です。人の手が加わっていない大自然も素晴らしいですが、「美しい田園景観」や「里山」などの身近な半自然は、人間性回復の場となっています。また、主食を米とする日本型食生活は、栄養のバランスが良いとされて、日本人の寿命は世界一です。しかし、百姓の減少は止まらず、荒れ果てた農地は広がり、食料の自給率は下がり続けています。我々は、長い年月をかけて創造した半自然と、豊かな食生活を失おうとしています。

 「安い食べ物を輸入して何が悪いの?。経済成長のためには、農業の切り捨てはしょうがない。」という主張は間違いではありません。急速な経済成長と西洋思想の浸透により、日本人の思想は変わりました。哲学者によると、人間と自然の関係の数だけ思想があるそうです。農林業を軽視し、自然とのチャンネルを失った現代人は、大きな忘れ物をしたように思います。しかし、棚田の保全への関心が高まるように、人間と自然の関係を見つめ直そうとする人々が増加し、新たな思想あるいは農業観が生まれているのも事実です。


奈良県農業試験場
企画調整室 藤本高志