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茎頂培養技術を用いたウイルスフリー苗の増殖

 植物の組織培養技術を実際に農業へ応用した例として、茎頂培養によるウイルスフリー苗(ウイルスに感染していない苗)の増殖があります。ウイルス病は媒介昆虫や管理作業により傷口から簡単に伝染し、農作物の生育が悪くなって収量が減り品質が低下するやっかいな病気です。この病気を防ぐには媒介昆虫を防除したり、弱毒ウイルスという植物に害の少ないウイルスを先に感染させることで、後から強毒ウイルスがきても感染しないようにする方法などがあります。しかし、ウイルス自体を防除する方法はなく、このため、イチゴやイモ類、キク、ユリなどの栄養繁殖性植物では、一度感染すると次代の苗に感染し、ウイルス病が広がって深刻な問題になります。

 そんなときに有効なのが茎頂培養技術です。ウイルスは植物に感染すると細胞間を移り全身に広がりますが、植物の芽の先端は細胞が盛んに分裂し、ウイルスに感染しにくいとされています。このため、芽の先の0.2mm前後の生長点を無菌状態で切り出して培養すると、ウイルスに感染していないウイルスフリー植物が得られます。

 茎頂培養による苗の増殖方法をもう少し詳しく説明しましょう。ウイルスを除きたい植物の芽の先端数cmを殺菌剤で殺菌後、クリーンベンチ(無菌の作業台)内の顕微鏡下で生長点を切り出し、植物の生育に必要な養分と寒天が入った培地で培養します。芽が伸びたところで植物ホルモンを加えた培地に移しかえ、わき芽を増やします。それを分割して発根させた後培地を洗い流し、土に植えかえて湿度を保ちながら外の環境に慣れさせる順化を行い、ウイルスフリー苗の完成です。この苗は生育が旺盛で収穫量が増えるため、ウイルスフリー苗の育成方法の検討は様々な植物で試みられ、イチゴやカンショなどの苗は種苗会社等で販売されています。

 この方法は生産性を上げるのに優れているのですが、苗代が高くなってしまうという欠点があります。また、ウイルスフリー株も再びウイルス病にかかってしまう危険性があるため、苗の更新が必要になります。これらの問題を解決するため、アブラムシなどの媒介昆虫が侵入できない網室内でウイルスフリー株を親株として管理し、そこで苗や種イモを増殖することでコストダウンして苗の生産が行われています。  
2003.1
奈良県農業技術センター
生産技術担当 資源開発チーム 岡田恵子