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ノーベル化学賞から見たバイオ研究

 昨年、島津製作所の田中耕一さんがノーベル化学賞を受賞し、日本中が沸きかえりました。最近の日本では暗いニュースが多い中、久しぶりに明るい話題、特に世界に認められる日本の技術が広く知れ渡って、日本人としても誇りに思ったのではないでしょうか。ノーベル賞の受賞理由は、まるごとタンパク質を分析する技術を開発したことですが、実験過程でアセトンをグリセリンと間違って混合したことから飛躍的に研究が進んだようです。

 それでは、なぜタンパク質の分析技術の開発が世界的にこれほど注目されているのでしょうか。バイオ研究は医療や農業などさまざまな分野で研究され、実用化されています。そして、昨今、ヒトやイネなどのDNAが解読され、あたかも遺伝情報は全て解明したかのように思われています。しかし、解読を終えたDNAの配列を一冊の本に例えるなら、ACGTの4つの文字が30億個並んだ暗号文でしかなく、どこに意味のある文章(遺伝子)があるかは、ほんの一部しかわかっていないのです。それを解明するには、タンパク質を分析し、DNAの配列の違いを見つけることが重要となります。今までは、分析しようとするタンパク質を分解しないと測定できなかったところを、田中さんは分解せずにタンパク質を測定することに成功したのです。ポストゲノム時代と言われている中、この技術は威力を発揮するに違いありません。

 動物とは異なって、危険にさらされても移動できない植物は、身を守る様々な機能を持っています。例えば、高温にさらされればある種のタンパク質を作り出して植物は温度に適応しようとしますし、病原菌に攻撃されれば、特異的なタンパク質を作り出して防御しています。このように、重要な機能の役割を担っているタンパク質を分解せずにありのままの姿で測定できれば、もっといろいろなことが解明され、育種にも役立つだろうと考えられます。当センターにおいても数年前から、光合成能力を高めるタンパク質や病原菌の攻撃から身を守るタンパク質をシクラメンに作らせようと研究を進めています。実際には、シクラメンの葉の切片から植物体を再生させる技術を利用して、有用なタンパク質を作り出す遺伝子を導入しています(写真)。

                     遺伝子導入実験しているシクラメン

2003.3
奈良県農業技術センター
生産技術担当 資源開発チーム 総括研究員 浅尾浩史