注意 過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。

収穫の秋、食欲の秋、文化の秋

 ようやく稲穂も色づき、収穫の秋を向かえました。今年は冷夏の影響で米の作柄が心配されましたが、今のところ作況指数は「92」で平成5年の「74」ほどの不作にはならないようです。

 今、世界的に見ると農地の砂漠化が深刻な問題になっています。地球規模での気候の変動とともに、増加する人口を養うために土地を休ませることなく作物を作り続けることによる地力の低下(過耕作)や、牧草の再生能力を超えた家畜の放牧による牧草地の裸地化(過放牧)などの人為的な影響も大きいと考えられています。そういった意味で、畑作や草地型畜産が農業の中心である欧米では、農業は環境に負荷を与える産業であると捉えられています。

 それに比較して、豊かな降雨によって育まれた森林や河川などの自然環境と調和を保ちながら、生態系の物質循環に適合するように発展をとげてきた日本の水田稲作は、持続性に優れた農業であると言われています。もちろん、人間によって造られた水田は厳密な意味の自然ではありません。しかし、長い年月をかけて自然とのバランスを保ちながら維持されてきた日本の田園風景は、もはや日本人にとっては自然の一部であり、生活環境の一部として捉えられているのです。

 その日本の水田で、今、耕作放棄の増加が問題になっています。耕作放棄によって荒廃するのは水田だけではありません。水稲作に必要なため池や水路や農道などの地域環境の荒廃をもまねきます。また、水田が持つ貯水機能の低下により洪水などの災害も懸念されます。つまり、長い間耕作によって維持されてきた人と自然のバランスが崩れてしまうのです。少しオーバーな言い方をすれば、耕作放棄により日本の伝統・文化が失われようとしているのです。耕作放棄の原因のひとつは、皮肉なことに、水田の生産力の向上と米の消費減少による生産過剰を解消するための生産調整の強化にあります。日本国民全員が毎日、もう一杯多くご飯を食べると米の生産調整面積は半分で済むと言われています。食欲の秋、文化の秋。日本の文化を感じながら「もう一杯」ご飯を召し上がってみませんか。
2003.10
奈良県農業技術センター
研究企画課 経営情報係 総括研究員 黒瀬 真