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身近にある小宇宙

“ゲノムプロジェクト”という言葉は数年前から、TVやニュースなどでよく取り上げられましたので、皆さんは耳にされたことは多いと思います。ゲノムというのはある生物のもつ遺伝情報のすべてということで、いわばその生物の設計図みたいなものです。これまでにゲノムプロジェクトにより色々な生物のゲノムが調べられました。私達の身近な植物ではイネのゲノムが既に解読されました。

 イネゲノムを解読した結果、イネには約5万もの遺伝子があるということがわかりました。これらすべての遺伝子が、すべての生きている細胞の中にあります。つまり花にも、葉を作る遺伝子があり、根にも花粉を作るための遺伝子があるわけです。植物は発芽して根を出し、葉を開き、花を咲かせ、実をつけます。葉で太陽の光を浴びて光合成を行う一方で、時には虫に食われ、病気と闘い、根から吸収した栄養から色々な物質を作ったりしています。雨の日も風の日もじっと耐えて、寒さの時もおろおろと歩けない植物の体の中では、様々な遺伝子が‘時’と‘場合’や‘場所’によって機能し、また一つの体の中で同時に色々な反応が行われているのです。

 ゲノムプロジェクトによって、どれほどの数の遺伝子があるのかについてはわかったのですが、それぞれ何をしているかについては、まだまだわからないものが数多くあります。更にこれら全遺伝子の個々の機能についてわかったとしても、それらの情報を組み会わせていくことで、複雑な生命現象を理解できるかどうかについては、現在のところわかりません。

 近年コンピューターが発達して、これまで人の頭の中では複雑すぎて考えられないようなことがわかるようになりました。例えば地球の大気や海洋の動き、温度等を計算して将来の気象を予測したり、宇宙の分野では、その誕生の歴史や、色々な力が影響し合う天体の動き等について広く研究に利用されています。植物でもこのように色々な要素が関わり、互いに影響し合っていますので、コンピューター上でシミュレーションを行う研究も始められています。植物の研究がもっと進めば、素晴らしく巧妙にできている生命現象を垣間見ることができるかもしれません。

 今年の初めに、地球から4億8700万キロも離れた火星に二つの無人探査機が降り立ちました。生命の存在の痕跡を探るための調査をしようとしているそうです。一方で私達の身近にある植物について、多くの人達がこの生命の神秘に魅せられ研究を進めています。植物は一見じっとしているようですが、体の中ではこのようなダイナミックな動きが日々あるわけです。皆さんもそういう視点で一度、身近にある小宇宙を眺めてみては如何でしょうか?
2004.3
奈良県農業技術センター
高原農業振興センター 営農技術チーム 技師 北條雅也