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冬虫夏草(とうちゅうかそう)のはなし

 新聞や雑誌で、「冬虫夏草」という言葉を見たり聞いたことがある人は多いと思います。それは、オリンピックで好記録を出した中国の陸上選手が「冬虫夏草」のエキスを飲んでいたとか、漢方薬として服用すればある種の病気に良く効く、という表面的な内容に限られており、どのような人にどんなふうに効くのか、他に活用方法はあるのか等、まだまだ未知の部分が多いようです。
 「冬虫夏草」とは読んで字のごとく、「寒い冬の間は虫の状態で、暖かい夏には草(茸:きのこ)に生育する。」ことを意味しています。漢方でいう「冬虫夏草」は、3000mを越える高地に生息するコウモリガの幼虫から子実体(きのこ)を形成したものですが、広い意味では、カビ(冬虫夏草菌)に侵された昆虫などから子実体(きのこ)を形成したものすべてを指します。
昆虫を侵すカビは、どのようにして体内に侵入し感染するのでしょうか。一般的にはカビの胞子が昆虫に付着し、体表で発芽して侵入し感染すると考えられています。このような感染方法は昆虫の種類によっては当てはまらない場合があります。写真のオオセミタケのように、地中深くに生息するセミの幼虫などが宿主の場合は、おそらく発芽した菌糸が体表に直接とりつき、侵入し感染するものと思われます。
 その場合、昆虫は抵抗もしないでカビの攻撃を受けるはずはありません。攻撃を防ぐためのメカニズムを総動員して、身を守ろうとするはずです。しかしながら、したたかなカビは何重にも張りめぐらした防御柵をかいくぐって感染し、宿主である昆虫を殺すことができます。
 さらにおもしろいことに、冬虫夏草菌に感染した昆虫は、腐敗菌に侵されず、アリなどの他の昆虫に食害されることもなく、そのままの姿で残っています。「冬虫夏草」から、他の菌や昆虫を寄せ付けない、何らかの抗菌物質や昆虫忌避物質が産生されていることが容易に想像されます。
 今後、さらに研究が進めば、「冬虫夏草」が産生する生理活性物質を利用することで、害虫や病原菌に対し効果的な農薬が開発される可能性があります。


オオセミタケ:宿主のアブラゼミの幼虫から発生
2005年6月
奈良県農業技術センター
環境保全担当 統括主任研究員 荒井 滋