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植物の中で作られる「殺菌剤」?!

 私たち人間は免疫機構を持っているため、病原菌が体に入ってきても病気にかからなかったり、たとえかかっても軽い症状ですみます。植物も、人間とは仕組みが異なるものの、病原菌から身を守るためのいろいろな仕組み(病害抵抗性)を持っています。
 例えばイネなどでは、葉の表面にガラスの主成分でもあるケイ酸などの固い物質を蓄積する性質があります。これは葉の表面から侵入するいもち病菌などの病原菌に対するバリアーとなっています。また植物細胞の中に、病原菌の生育や活動を阻害する物質を、もともと持っているものもあります。これらは植物が病原菌に対抗するために常に持っている抵抗性です。

 ところがこれとは別に、健全な植物体や組織ではまったく認められないのに、病気にかかったり、傷つけられたりした時にのみ発揮される抵抗性もあります。例えばイネやオオムギ、ジャガイモなどでは病原菌が感染しようとする際に、侵入を受けた部位周辺の細胞が急速に死んでしまうという現象が観察されます。これは過敏感細胞死と呼ばれ、この反応が速やかに起こる植物ほど病原菌に対して強い抵抗性を示すことがわかっています。そして過敏感細胞死を起こした細胞周辺には、「ファイトアレキシン」と呼ばれる物質が蓄積されることが明らかとなっています。

 この「ファイトアレキシン」は抗菌性の物質で、感染を受けた時にだけ大量に合成・蓄積されることにより、侵入してきた病原菌の増殖を妨げるという、いわば植物が自ら生み出す「殺菌剤」のようなものです。現在のところ、マメ科、ナス科、イネ科、アブラナ科等の100種以上の植物で、合計200種以上のファイトアレキシンが見つかっています。一方病原菌は、これらのファイトアレキシンを無毒化したり、合成を妨害したりする能力を獲得することで、これらの植物に感染する力を保っているのです。

 ところで最近の有機農産物指向の中で、この天然の「殺菌剤」を農薬として利用できないか、という発想が出てくるのですが、抗菌作用が現在市販されている殺菌剤よりずっと弱く、また植物の細胞に対する毒性があるため、実際には難しいようです。むしろ私たち人類が軟らかくておいしい作物を求めて、堅い物理的バリアーや苦い抗菌性物質を持たない品種を選抜してきたことが、結果として化学合成殺菌剤に頼らなければならない現状を生み出してしまったのかもしれません。

2001年6月
奈良県農業技術センター 
環境保全担当 病害防除チーム 研究員 藤田圭二