はじめに




は じ め に

 近年、子どもについて、自制心や規範意識の低下、社会性の欠如、あるいは自立の立ち遅れや人間関係を築く力の未発達など、豊かさ故の社会の歪みとも言うべき問題状況が指摘されています。道徳教育の一層の充実が求められていることは自明です。言うまでもなく道徳教育は、「あるべき」道徳的規範を子どもに伝達するだけのもであるなら、子どもの心に響くものとはなりません。したがって、子どもの生活行動にも生かされてはきません。奈良県では本年度も、人を思いやり生命を大切にする心を育てようとする授業や心豊かによりよく生きる子どもを育てようとする授業などが実践されました。それぞれの学校の歴史や伝統、それに地域の特性や環境などを考慮しつつ、小・中・高等学校で具体的な成果を積み重ねてきています。
 また、平成17年度奈良県道徳教育冬季研修会では、「学校、家庭、地域社会が連携して取り組む道徳教育」と題するパネルディスカッションが、奈良県道徳教育振興会議委員をはじめとするパネリストによってなされました。道徳性を子どもにはぐくむためには、まずは道徳性をもった保護者や地域の人たちとの触れ合いが必要です。保護者や地域の人たちと触れ合うことによって子どもの道徳性も育ちます。大人たちにはその責任があると思います。しかしながら、この三者によるネットワークをつくることですら、現実にはなかなか大変で、一筋縄では解決できそうにありません。例えば、一昨年、奈良で生じた痛ましい小学生殺害事件は、「よその知らない人とは話をするな」という具合に話をしてもよい人と悪い人の一線を引くべきだという気持ちを生じさせます。また、今年になって滋賀県で生じた事件は、母親による子ども通学の安全を確保するはずの協力システムそのものに疑問を投げかけるものでした。もはや自分の子どもは自分で守れという一線しか残されていないのでしょうか。ある調査によれば、今や5割から8割の人たちが、登下校時の子どもの安全に不安を感じているという結果も出ています。
 でも、このような状況だからこそ、人間相互の信頼や思いやりに基づいて、学校と保護者と地域社会が一体となった道徳教育への取組が一層求められます。奈良県道徳教育振興会議は、こうした取組が新たな成果をもたらすことを心から願っており、そのための応援を続けていきたいと考えています。

 平成18年3月




奈良県道徳教育振興会議
会長 小田切 毅 一