iJAMP-時事通信社- オピニオン寄稿(2011年11月14日 掲載)「このくにのかたち」を考える(その5)



1.災害が起こるのは「神のたたり」?

荒井知事
 
 9月2~4日に台風12号が紀伊半島を襲いました。長期間の大雨で、土砂崩落が発生し、多くの人命が失われたり負傷者が出たりするなど、大規模な被害をもたらしました。

 災害の対応に追われ、本稿の提出も遅くなってしまいました。

 今回は、危機に対応する「わが国の流儀」について、少し考えてみようと思います。

 われわれの心の中には、災害や災難をもたらすのは、「神のたたり」とか、「天の仕業」と考える傾向がとても強くあります。この災害は「天罰」だと言われるとそうかと思ったり、台風で敵の船が沈むと「神風」だと言ったりします。しかし、一方、災害を常に「神だけのせい」にしないで、神をその気にさせた「人のせい」にしようともします。この災害は「人災」だと言って「悪者」探しに一生懸命になったりします。

 しかし、あらゆる災害は、何か捉えることのできる原因があって起こる、と考えるのが自然です。



2.危機に際して、最も重要なのはリーダーの能力

 災害が発生し、危機が現実のものになると、これは、神のせいだ、誰々のせいだと言っても始まりません。災害からの避難、災害の被害の減少、次の被害の発生防止等、人間の危機管理能力が問われます。

 われわれは一概に「危機管理」と一つの言葉で言いますが、実は危機管理には「Risk Control(危機発生の予防)」と「Risk Management(危機発生後の対処)」の二種類があることはよくご存じだと思います。

 この二種類の危機管理は、やり方も、対処の際の気持ちの持ち方もまったく違うもので、この二つを同じ分野の仕事と考えるのは間違いだと思います。危機発生後の対処の経験があって、初めて、危機発生予防の知恵が出てくるのが常です。

 「危機発生後の対処」において、最も重要なのは、リーダーの能力です。危機の進度を的確に予想し、危機の進行を防止する手段を考え出し、その手段を即断し、実行する能力が必要です。

 その際に必要なのは、「リーダーの判断に運命を委ねる」人々の気持ちと、政治環境だと思います。

3.民主主義は、本来は、危機管理のリーダーを選ぶシステム

 運命を委ねるリーダーを選ぶシステムは、現代の社会では投票=選挙によってです。選挙の強さと危機管理能力の高さが、必ずしも同一人物に備わっているケースばかりではないですので、本当に重要な国家の危機に直面しますと、民主主義的に選ばれたリーダーの資質が問われることにもなります。選挙で選ばれた政治家たるリーダーの「正統性」はあっても、その行動の「正当性」に疑問符がつくことがあるのは、世の常です。現代の民主主義の大きな欠点のひとつですが、それでも、民主的に選んだリーダーに対しては、ある期間、国や地域の運命を委ねているという気持ちは大事だと思います。選んだ直後からリーダーに悪口を浴びせる国は、民主主義をよく理解していると言えません。また、リーダーを選ぶ際は、「甘い言葉で人を惑わすリーダー」より、「いざという時に頼りになるリーダー」を選ぶことが大事です。

4.危機の際、リーダーに最良の「情報」が届くシステムが不可欠

 危機の際、リーダーが最高の能力を発揮するためには、最良の「情報」が迅速に、リーダーに届けられることが不可欠です。「情報」は、単なる「データ」とまったく違います。必要な「分析」が加えられ、リーダーが最良の「意思決定」をするために必要なものが「情報」です。

 このような「情報」を用意するのは「参謀」ですが、現代のどのような組織にも、「データ」の収集、必要な分析、「情報」に仕立てて、リーダーに届けるシステムは不可欠です。平時でももちろん必要なことですが、危機の際はなおさら必要です。このような「現場の情報(Battle Field Information)」を「政治のリーダー(Decision Maker)」に戦略的情報として常時届けるシステムは、果たしてわが国に十分備わっているのでしょうか。