iJAMP-時事通信社- オピニオン寄稿(2012年2月2日 掲載)



「このくにのかたち」を考える(その6)


1.地方分権の意味とは

荒井知事 地方分権を議論する場合、「分権」の「権」は、「国の権限」ということですが、この「権限」の意味は、「責任」と同義だと思います。つまり、「地方分権」の議論の出発点は、これまで国が果たしていた「責任」のうち、地方がどこまでの責任を担うのかということであるべきです。

 そのような地方分権の意味を考える場合、それは当然、憲法で述べられている「地方自治の本旨」にかなっているかどうかが大きなポイントです。地方自治の意味には、「団体自治」と「住民自治」の2種類があると言われています。前者は、地方行政組織をできるだけ自治的に、つまり、国の統制から自由にすることを基本にしようという考えですから、地方分権の議論は、団体自治の議論でもあります。

 一方、後者の「住民自治」は、「地域のことは地域の住民が決めよう」ということですから、地域を舞台にした「政治参加」の問題です。団体自治が確立して、地方行政組織に権限が存在していなければいけませんが、それとともに住民が決定に参加する「住民自治」が確立されていなければ、「地方自治の本旨」も存在しないことになります。また、「団体自治」の観点からは、「大きな自治体」が指向されますが、「住民自治」の視点からは、「小さな自治体」が指向される傾向があります。


2.地方分権はなぜ必要か

 そのような地方分権はなぜ必要と考えるべきでしょうか。まず、わが国の発展の形、国力向上のパターンから地方分権の必要性を考えてみます。

 わが国はこれまで、中心となる大都市がわが国の経済発展の中心となり、周りがそれについて行って発展する形を基本としていました。雁(がん)が飛ぶ形に似ているので、「雁行型」と呼ばれていました。

 産業についても、基幹産業を中心に系列を作り発展するという同様の形を得意にしていました。

 別の言い方をすれば「集中と展開」を発展の原動力にしていたわけです。しかし、この形はもう通用しない時代になっています。

 今後、わが国が発展するためのキーワードは、「自立・分散・連携」だと考えています。

 各地方が自立心を持って、せっせと実力を高めることにより、「集中型」ではなく、「分散型」の国家発展が可能だと考えます。その際、「地方の自立を国が応援すること」、「災害等に備えて国力を分散すること」、「地域と地域が交流によって学び合い、連携すること」が大事です。

 国の権限を地方に移譲するだけで地方が発展するわけではなく、地方がそれぞれ持つ「自立心」が基本になります。自立する心を持った地方を国が助けるといった「地方分権」が必要です。


3.グローバル化が進む中での地方分権の内容とは

 グローバル化が進む中で、各国とも政治、行政の在り方が大きな問題となっています。グローバル化と地方分権の関係をどう考えるべきでしょうか。グローバル化が経済を発展させるといった良い面もあるのですが、最も大きな問題は、雇用が海外に逃げることと、格差が拡大することです。

 TPP(環太平洋連携協定)交渉に際しては、中央政府が、わが国の国益を考え、国論を統一して、対処していただきたいと思います。一方、グローバル化対応のため、必要な地方分権を国に行っていただきたいと思う面があります。例えば、地域雇用の確保のために、「ハローワーク」のノウハウと権限を地方に移管してほしいと思っています。また、地域格差の拡大といったグローバル化の弊害を阻止するため地域格差を平準化する国の役割を強化するとともに、地域の雇用確保のための地方の能力強化を分権の形で、それぞれ、行っていただきたいと考えています。グローバル化の進展に対応するため国と地方の役割分担を賢明に行う必要があるということです。


4.地域間格差を助長するような地方分権は避けるべし

 また、地域間格差を助長するような「地方分権」はできるだけ避けてほしいと願っています。

 例えば、地方分権の大きな柱の一つである「税源の移譲」です。単純な「税源の移譲」では、税源の大きい大都市に税収が集中してしまいます。奈良県のような税源の小さい地域にも公平に税収を配分するのは国家権能です。都市と地方の格差是正は、どの国でも基本的には中央政府の役割であり、「地方分権」だけでは達成できません。

 社会保障の現物給付など、地方が行うべき責任を割り振ったうえで、必要な財源を国が配分すべきで、地域間の財政力格差が大きい中で、税源を移譲したうえで、税収に応じて社会保障給付を行うとすると、税収の多い地域だけ社会保障が手厚い結果となり不公正な社会になります。

 これまでの議論を、まとめて言いますと、地方分権を行うに際しては、何のために、どのような権限すなわち責任を地方に移譲するのかを明確にしておくべきということです。何のためにという地方分権の理念が必要ということです。