優秀賞1

本の世界の入り方

                              智辯学園奈良カレッジ中学部 2年 大中 綾夏
 
 『赤い魚と青い魚がいました。
 「あっ。」と言いました。
 仲良くなりました。』
 これは、私が幼稚園へ入園する前、初めて作った物語です。部屋を整理していた時、ふと見つけました。何で仲良くなったのかも分からない、滅茶苦茶な話だと思ったのですが、何だか心温まるいい物語だなあと思い、嬉しくなりました。
 私は小さい頃から、物語を読むのも、考えるのも大好きでした。
 整理をしていると、昔書いた物語が次々と出て来て、つい読みふけってしまいました。読んでいる内に、日記を読んでいる様な気分になって、
「昔、自分はこんな事を考えていたのか。」
と、懐かしく、またちょっぴり恥ずかしくも思ったりしました。
 幼稚園の頃に書いた物語は、ヒーローが悪者を倒す話がほとんどです。そういえば、日曜日の朝、よく戦隊ヒーローの番組を見ていました。
 この頃までは、ハッピーエンドの物語ばかりでしたが、小学校に上がってから、哀しい物語も増えていきました。
 小学校へ上がってからの私は、どんな風だっただろうと思い返します。幼稚園から急に人間関係が広がってとまどい、友達とうまくいかない時は、本の世界へ逃げ込むようにしていました。
 今でもよく、本の世界へ逃げ込む事があります。本の世界へ入り込むと、友達とのいざこざを忘れる事ができて、とても気持ちが楽になりました。
 そこでふと、私は思いました。本の世界へ逃げるという事は、現実から目を背けている、という事ではないだろうか。もしそうなら、私は現実を見る事ができない、駄目な大人になってしまうのではないかと、大変不安になりました。
 しばらくしたある朝。新聞に、私が「明るくて素敵だなあ。」と憧れる、タレントへのインタビュー記事がありました。
 そこには、
「私は昔、いじめられていたのですが、本の世界へ入ることで、それを乗り越えていました。」
と書いてありました。
 私は驚きます。元気で明るいタレントさんなのに、昔いじめられていたんだ。
 そして、別に本の世界へ逃げてもかまわないんだ、と思いました。
  そう思うと、不安がすっと消えて、もっと本の世界へ入り込んでいこう、と晴れ晴れとした気持ちになりました。
 私が最近よく読むのは、歴史小説です。その事をきっかけに、家族とその時代の遺跡を見に旅行へ行く事が多くなり、私の好奇心は益々強くなりました。本を読む事で、実際の生活がより良い物となったのです。
 よく、「実際に経験をしなければ意味が無い。」という話を耳にします。
 確かに、本の世界に入りっぱなしではいけないとは思います。けれども、本の世界を楽しめば、もっと充実した生活を送れるのではないでしょうか。私が実際そうでした。
 また、現実にはできない経験や、ありえない世界が、本の中にはあるのです。本を読み、別の世界を疑似体験する。実際に経験をしなくても、大切な意味があると思います。
 この作文を、国語の先生に見ていただきました。先生は、
「僕も中学生の頃は、よく本を読んでいました。時々、教師と生徒が楽しそうにしている所を見ると、昔読んだ青春の物語を思い出して、嬉しくなるんです。」
とおっしゃいました。
  私が、赤い魚と青い魚の物語を思い出して嬉しくなった事と、少し似ているように思います。本を読み、知識だけではなく、感じた事を、頭の片隅にとどめておく。そうすれば、私の心配した「駄目な大人」ではなく、日頃の生活の中からでも幸せを見出せる「立派な社会人」へとつながるのではないでしょうか。