優良賞6

 「命」

                              智辯学園中学校 1年 齋藤 由樹

 僕は、ひとりっ子です。
 幼稚園児だった頃、公園で兄弟仲良く遊んだり、兄弟喧嘩ができる友達の事が、うらやましくて、
「どうして僕には兄弟がいないの?」
と、寂しい気持ちを両親に伝えた事がありました。両親は、僕の他に、二人の子どもが母のお腹の中で亡くなっていた事を教えてくれました。二人の兄弟が亡くなっていた事実を聞いても、幼稚園児だった自分には、よくわかりませんでした。両親は、そんな僕の姿を見てすぐに車を走らせました。兄弟が眠るお寺に連れて行ってくれたのです。
「この世に生まれて来れなかった二人の命はいつも由樹の胸の中にいてるよ。寂しくなったら、このお寺に手をあわせに来よう。」
と、母は言ってくれました。目に見えない存在を理解するのは難しかったけれど、お参りを重ね、手をあわせていくうちに、心の中で二人の兄弟の存在が大きくなっていきました。手をあわせ、心で話をすると、不思議と気持ちが穏やかになるのです。命の大切さや心のつながりを、天国にいる兄弟に教えてもらったと思っています。
 命は、いずれ無くなるけれど、自ら断ったり他人が奪ってはいけません。一つの命がこの世に誕生する事は、何億分の一の確率だと聞いた事があります。命がお母さんのお腹に宿っても、この世の中に生まれてくるとは限らないのです。
 だから、生を受ける事は奇跡なのです。「命」は、かけがえのない大切な宝だから、この世に生まれて来れた事に感謝し、大切にしなければいけません。しかし、残念ながら最近のニュースを見ていると、若年層の自殺が増えている事がわかりました。とても悲しい事です。自殺した人は、どんな悩みを抱えていたのでしょうか。誰か相談する相手はいなかったのでしょうか。命を粗末にする事は許されません。一人で抱えないで自分の思いを伝える事ができる家族や友達を作るべきだと思います。
 僕の周りには、たくさんの友達がいます。しかし、毎日楽しい事ばかりではありません。人それぞれ個性があるので、ぶつかる時もあります。そんな時は、相手を受け入れる心を持ち、自分の意思も素直に伝えようと思っています。
 人はひとりでは生きていけません。家族や周りの人々に支えられて生きているのです。困っている人を見れば、優しく手を差しのべ、悲しんでいる人を見れば、自分にできる事はないかと考え、そばで寄り添うだけでも力になれると思います。将来、僕は人の役に立つ事をしたいと考えています。
 僕はピアノを弾く事が好きです。コンクールで演奏を聴いて下さった方に、
「君の演奏には感動しました。また聴かせて下さいね。」
と、嬉しい声をかけて頂きました。毎日、厳しいレッスンを受けていますが、苦痛に思った事は一度もありません。壁を乗り越えられなくて、悔しい涙をたくさん流しましたが、それを乗り越えた時、とても気持ちの良い演奏ができるのです。
母がよく言ってくれます。「自分が楽しい気持ちで演奏していると、きっと人にその心が伝わる。」と。
 将来、どんな仕事に就くか分かりませんが老人ホームや身体の不自由な方の所に行って心を込めてピアノを演奏したいと考えています。それが僕の夢です。
 たくさんの人々とのつながりを大切にして、感謝の気持ちを持ち続けていきたいです。いつも僕の心の中には、この世に生まれて来れなかった、かけがえのない二人の兄弟が支えてくれるから心強いです。