黒麻地几帳に桐文様染・繍帷子

解説

 

 帷子とは麻布で仕立てられた裏地のないきもののこと。生地の透け感が黒の地色に爽快さを加え、夏季の衣料にふさわしい質感に見せている。

 全身にあしらわれている文様は、几帳とその合間を縫うように立ち上がる桐の木。几帳の帳(とばり:布の部分)の模様が檜垣風であるせいか、庭に植えられた桐が垣の上に枝葉を広げている景色にも見える。几帳に平安の宮廷風俗を連想し、さらに『源氏物語』を連想すれば、この文様が『源氏物語』の「桐壺」巻を暗示していると解釈できるが、当時の人々の目にはどう映っただろうか。古典文学への関心や知識がどこまで定着していたかを考えさせる表現である。

 江戸時代前期の寛文小袖に見られた颯爽として動的なデザイン感覚は下火となり、次の元禄(1688~1704)の泰平と豊饒の時代を思わせる、絢爛豪華な印象へと移行していく。寛文小袖の名残にも見える左腰のわずかな空白や、全体に広がる大柄な文様、さらに几帳の柱や桐の幹・葉にほどこした大粒の摺匹田(※)は、いわゆる元禄小袖の特色に通じるもので、本領も元禄頃の帷子であろうと考えられる。

※摺匹田(すりひった)…型紙を使って染料を擦りつけ、鹿の子文様を表す方法

 


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