奈良県指定有形文化財 高鴨神社攝社東神社本殿 修理工事竣工のお知らせ
奈良県教育委員会事務局文化財保存事務所
平成26年1月に着手しました奈良県指定有形文化財高鴨神社攝社（せっしゃ）東神社本殿 修理工事が、この度竣工しましたのでお知らせします。これまでに、屋根桧皮葺替え工事、木部の修繕工事、塗装彩色調査、単色塗り工事等を実施し、最終年度となりました今年度は、主に正面の彩色復旧工事を実施して色鮮やかな社殿が蘇り、これで全工程を終了しました。
●高鴨神社攝社東神社本殿の修理工事について
・破損状況
前回の屋根全面葺替えから40年近くを経て、長年の風雨等により屋根面全体に苔が繁殖し、桧皮の油分も抜けて、腐朽・摩耗が進行していました。近年ではさらに小動物による被害も目立ち、随所に雨漏りが確認されるに至っていました。さらに深刻だったのは、軸部の不同沈下がかなり大きく生じており、傾斜もあったことです。不同沈下についてみると、東方（正面向かって右）で最大7cm強も沈下しており、この規模の社殿にしては大きいと言わざるを得ませんでした。不陸、傾斜の変形に加え、柱がいずれも変形しやすい欅（けやき）材であることも災いし、身舎壁板が、柱小穴（こあな）から外れる等、軸組が全体に弛緩し、これによって、身舎内部の床組や天井等の造作が外れて、内部から空が見えるほどの影響が生じていました。そのほか、木部の塗装についても、特に正面彩色塗膜の剥落がかなり進行し、滅失の危機に瀕していました。
・屋根工事
昭和51年に屋根葺替えされて以来の修理で、桧皮葺の平葺きについては全面に、軒付けは妻上方の一部を残して全面葺替えとしました。
・木工事
全体に東方が下がっており、軸部についてはこれら不陸を修正しました。また、垂下していた螻羽（けらば）を金物補強し、それ以上の垂下防止措置をとりました。その他、軒廻り・小屋組の調整、梁の腐朽箇所の修繕、野地の修繕、箱棟の修繕、内部造作の修繕等を実施しました。
・塗装・彩色・金具工事
塗装彩色調査を実施し、これまでに少なくとも二期の彩色の時期があったことが確認されました。今回の修理では、資料の整う直近の彩色の時期（江戸時代後期頃）の姿に概ね復旧しました。また、錺金具については、現状取付いていたものの形状を整えて鍍金し直した上で再用し、欠失分についてはこれらに倣い新調補足しました。
●高鴨神社攝社東神社本殿について
攝社東神社本殿は、本社本殿（重文）の東側に隣接する一段低い場所に位置し、本社本殿と同様に三間社流造で、現状は桧皮葺です。京都の上賀茂社、下鴨社に代表される「流造（ながれづくり）」の社殿は、全国的には多く広く分布していますが、奈良県内に限ってみると比較的希少な遺構です。
神社保管の棟札より、江戸時代前期、寛文9年（1669）の建立であることが知られますが、細部意匠からすると、もう少し古い様相を呈し、本社本殿に比して簡素ながらも、全体として桃山風の様式を伝えます。建立後の改変についても詳らかではありませんが、享和2年（1802）、文政2年（1819）、天保9年（1838）の棟札が現存し、それぞれの時期に屋根葺替え等の修理が為されたことが窺い知れます。また、近代以降では、大正9年（1920）に屋根葺替えが実施され、顕彰規程により昭和33年に県指定文化財にされて以降では、昭和51年（1976）に屋根葺替え・部分修理が為されており、これが事実上、直近の屋根葺替え修理でした。その後、平成4年（1995）に自費によって、単色塗装修理が為されています。
●修理事業データ
修理方針 屋根葺替、部分修理、及び塗装修理
所 在 地 御所市大字鴨神1110番地
事業期間 平成25年9月～平成28年9月
工事期間 平成26年1月～平成28年7月（休止期間あり）
工 費 4150万円
（※補助率 奈良県60%・御所市20%）
その他補足情報 本社本殿（重文・天文12年（1543）建立）の修理は、平成20～21年度に実施済み（屋根葺替、部分修理、及び塗装修理）。
●建造物データ
構造形式 三間社流造 桧皮葺
平面積 13．41平方メートル
軒面積 34．06平方メートル
屋根面積 56．55平方メートル
奈良県指定有形文化財 高鴨神社攝社東神社本殿 正面全景
奈良県指定有形文化財 高鴨神社攝社東神社本殿 正側面全景
奈良県指定有形文化財 高鴨神社攝東神社本殿 正面彩色詳細
※問い合わせ先 高鴨神社 0745－56－0609
文化財保存事務所事業係 0742－27－9865