カノコソウについて

カノコソウ(鹿子草)は、オミナエシ科の多年草で、ハルオミナエシという別名があります。春から初夏にかけて、秋の七草として有名なオミナエシに似た白ないし淡いピンクの小さな花を多数咲かせます。この花のつぼみを真上から見ると、染めの技法の一種として現代にも伝わる「鹿の子絞り(子鹿の背のようなまだら模様)」に見えることからカノコソウと呼ばれています。栽培する場合は、分割した株を前年の秋に畑に植え付けると、翌春になって芽が伸び出します。生薬の原料とする場合は、秋に地上部が黄色くなった頃に根を掘り取り、洗浄、乾燥します。赤褐色でひげ根がたくさんあるものが良品とされ、吉草根(きっそうこん)といって日本薬局方収載の生薬となります。鎮静効果があり、鎮静薬や婦人薬に用いられています。この生薬を原料に用いた代表的な医薬品に、更年期症状の改善に用いられる「命の母」があります。カノコソウは、かつては国内各地の山地に広く分布していました。幕末の植物学者の飯沼慾斎(いいぬまよくさい)は、「草木図説(そうもくずせつ)(1856)」のなかで、「カノコソウ、一名(いちめい(=別名))、ハルオミナエシ。伊吹山中多く自生す」という記述を残しています。ところが、森林の伐採や採集により野生のものは激減しています。今、国内で生薬に利用されるカノコソウはおもに北海道で畑地栽培されたものです。大和野菜研究センターでは、奈良県での薬草生産の振興の一環として、このカノコソウに着目し、栽培方法についての試験研究を開始しました。比較的涼しく、日当たりがよくて湿気の多い環境を好むとされていますので、やや標高の高い地域での新たな特産品化を目指しています。本センター所在の宇陀市では地域をあげて薬草栽培に取り組んでおり、早期に成果を得て栽培の普及に努めたいと考えています。
kanokosou
  可憐(れん)な花をつけたカノコソウ

【豆知識】「足の裏のような異臭」
カノコソウやオミナエシには特有の強い異臭があります。この臭いは、オミナエシ科の植物に広く存在するイソ吉草酸と呼ばれる物質から発生しています。しばしば足の裏の臭さに例えられますが、実際に同じ成分です。phu plant (phu=プーは、英語で、あまりの悪臭で鼻をつまむときの感嘆詞)とも呼ばれていました。しかしこの臭いには、マタタビと同じようにネコやネズミが引きつけられるともいわれています。ヨーロッパ原産の西洋カノコソウ(ヴァレリアン)は、「深い眠りにつくハーブ」として、古くから万能薬として使われ、今も睡眠改善などに用いられますが、特有の臭気を、気を失っている患者に嗅がせる気付け薬として有名でした。またこの独特の臭いが逆に好まれ、かつては菓子やたばこの香料としても利用されることがあったようです。



奈良新聞で第1日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
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