花粉媒介昆虫について

 人とミツバチの関わりは古く、スペインのアラニア洞窟で発見された約1万年前の壁画には、野生のミツバチの巣から蜜を採取していると考えられる様子が描かれています。ミツバチを飼育し、巣を破壊しないで継続的に蜜を採る近代養蜂技術の基礎は、19世紀半ばに米国において確立されましました。日本でも、古くからニホンミツバチを使った養蜂が行われ、明治時代にはセイヨウミツバチとともに近代的な養蜂技術が導入されました。
 国内生産額が55億円に上る蜂蜜のほか、ローヤルゼリー、プロポリスなどが、ミツバチの生産物として食品利用される一方で、ミツバチが農業分野で花粉媒介昆虫として果たす役割も大きく、その経済効果は約1300億円と試算されいます(ポリネーター利用実態等調査事業報告書、日本養蜂協会、平成26年3月)。
 現在の農業生産においてとても重要な役割を果たしているミツバチですが、2008年以降、世界規模で慢性的な不足が続いているため、他の花粉媒介昆虫への期待が高まっています。リンゴやサクランボなどの交配ではマメコバチの代替利用が始まり、イチゴの交配ではマゴットセラピー(豆知識参照)に用いる医療用のヒロズキンバエの利用について検討が始まっています。
 奈良県農業研究開発センターでも、5年前にイチゴの促成栽培におけるヒロズキンバエの利用について検討を開始し、平成28年度からは、農研機構生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)」の支援のもと、ヒロズキンバエ(商品名:ビーフライ)を生産販売する株式会社ジャパンマゴットカンパニー、岡山大学、島根県および西日本農業研究センターとともに、実用化に向けた研究開発「冬季寡日照地域のイチゴ栽培におけるミツバチの補完ポリネーターとしてのビーフライ(ヒロズキンバエ)の利用」を実施しています。

hirozukinbae
          交配中のヒロズキンバエ(成虫)

【豆知識】「厳冬期の利用に期待」
 マゴットセラピーはハエの幼虫を用いて傷を治療する療法です。無菌状態で繁殖させたヒロズキンバエの幼虫を人の壊死組織に置くと、殺菌作用を持つ消化液によって腐った組織のみを溶かして食べるため、壊死組織がきれいに除去されます。奈良県農業研究開発センターでは、このマゴットセラピーに用いるヒロズキンバエの成虫をイチゴの交配に利用するための研究を行っています。通常、イチゴの交配に用いるミツバチは、気温が低く、紫外線量が少ない厳冬期には活動しにくくなるため、交配がうまく行われず、果実の形が悪くなることがあります。ヒロズキンバエは、ミツバチに比べて活動温度幅が広く、紫外線がなくても活動できるため、厳冬期の利用が期待されています。また、イチゴの生産現場では原因を特定できないようなミツバチの活動低下も散見されますので、今後、認知度を高めながら一層の普及を図りたいと考えています。



奈良新聞で第1日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。