蚊取り線香と除虫菊

 夏の風物詩の一つに蚊取り線香がありますが、蚊取り線香の本来の原料をご存じですか。それは除虫菊(シロバナムシヨケギク)です。除虫菊の花の子房に天然成分のピレトリンが多く含まれており、殺虫効果を持っています。そのため、現在も殺虫剤の原料として世界各地で栽培されています。
 除虫菊は地中海および中央アジアが原産といわれていますが、日本に伝わったのは明治時代で、アメリカから送られた種子を和歌山県出身の上山英一郎氏が栽培し、研究を重ねて蚊取り線香を発明しました。また除虫菊の殺虫成分であるピレトリンの発見により、多くの農薬の開発が進められ、殺虫剤の発展に寄与しました。天然のピレトリンは様々な害虫に効果があり、ほ乳類に対する安全性が高いので、今も農薬の除虫菊乳剤として利用されています。しかし、光や空気中の酸素に不安定で、環境中では速やかに分解し、作用時間が短いといった性質があります。殺虫剤として利用するにはこの性質を改善する必要があるため、ピレトリンの構造を改良して、殺虫活性と安定性を高めた合成ピレスロイドが開発されました。現在、蚊取り線香に使用されている殺虫成分は、この合成ピレスロイドが主流となっており、農薬や家庭用殺虫剤の成分としても広く利用されています。
 また新しい蚊取り線香の製品には、使い心地をよくするため、花や森の香りがするものや煙が少ないものも販売されています。最近では、家庭内で使用する蚊取り器は電気式、スプレー式が主流になっていますが、この夏は蚊取り線香で風情を楽しんでみてはいかがでしょうか。
 最後に、気温が高くなり農作物への害虫発生が増える季節ですが、殺虫剤を使用するときは必ずラベルをよく読み、その使用方法(適用作物、希釈倍数、使用回数など)を守ってお使いください。

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【豆知識】「蚊取り線香が渦巻き型になった由来」
 当初、蚊取り線香は、除虫菊の乾燥粉末におがくずを混ぜて燃やすものでしたが、燃やすためには夏の時期に火鉢のようなものが必要となるため普及しませんでした。次に、線香に除虫菊を練り込む方法が考案され、棒状蚊取り線香が販売されました。しかし棒状のものは立てて使うため、安定が悪く、倒れて火災につながることがありました。また燃焼時間が短く、長さ20cmで約40分しか保ちませんでした。現在の渦巻き型は、上山氏の妻がとぐろを巻いている蛇に驚いて、夫に報告したところ、それをヒントに考案されたといわれています。現在、市販されている渦巻き型蚊取り線香は、伸ばすと約75cmあり、燃焼時間は約7時間もあります。短時間用として棒状のもの、太いもの、外国では四角形や六角形のものがあり、蚊取り線香は日本だけでなく、世界でも広く利用されています。



奈良新聞で第1日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
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