春の切り枝を楽しむ

 切り枝は、生け花の材料としての需要が多く、一年中店頭に並ぶバラやキクと違って、季節感のある花材です。立体感、ボリューム感にも優れ、生け花の稽古に加えて、ホテルや店頭での装飾、イベントでの利用など、様々な場面で使われています。奈良県内では五條・吉野地域や平群町で栽培が盛んです。特に五條市西吉野町では年間を通じて様々な品目が生産されており、100種類を超えることから「花木の百貨店」と呼ばれ、関西を代表する産地となっています。
 花もの、実もの、紅葉ものなど、季節ごとに様々な品目が流通する切り枝ですが、これからの時期には、温室で少し早く春を迎えた促成の花木が出回ります。桜や桃、雪柳、サンシュユ、木蓮などがその代表で、産地では畑で収穫した枝を束にし、温室で芽吹かせ、開花直前に出荷します。昔は山の斜面を掘った土室(つちむろ)を利用した地域もありました。土室は温度が15℃前後、湿度70~80%と安定しており、促成に適した環境です。
 しかし、ただ温めればいいというものではありません。こうした花木は冬の間、寒さから身を守るために休眠していますが、一方でしっかり寒さにあたらないとうまく開花しないのです。品目にもよりますが、概ね自然開花期の遅いものほどより長い低温期間が必要で、早く咲かせるのは困難と言えます。例えば、桜では、「ソメイヨシノ」をいくら加温しても今の時期に咲かせることは難しく、年末から早春にかけては、主に早咲きの「ケイオウザクラ」という品種が利用されています。
 これから、桃の節句や卒業式にむけて、春の切り枝は出荷最盛期を迎えます。ピンクや黄色といった花色の春らしさはもちろんですが、比較的低温に強く、花持ちが良いことも魅力のひとつです。気温の上がりすぎない玄関などで生ければ徐々に咲き続け、長期間花を楽しむことができます。皆さんも切り枝で少し早い春を楽しんでみませんか。

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   春の切り枝の代表「ケイオウザクラ」のディスプレー

【豆知識】「切り口工夫し水揚げを」
 切り枝は単独で生けても形になり、季節感を演出できる魅力的な花材です。
 切り枝をより長持ちさせるには水揚げが大切で、切り枝独特の水揚げ方法があります。細い枝であれば、切り口を大きくするため、草花と同じように斜めに切ります。太い枝では縦にハサミを入れ、切り口を十文字に割るとより効果的です。割ることで、生け花では剣山に挿しやすくなるというメリットもあります。枝の硬いものは基部を金づちなどでたたいてつぶし、吸水面を大きくします。つぶれた組織で水が濁る場合には、切り口を洗ってから生けると水揚げがよくなります。置き場所も大切です。空気が乾燥すると花弁が萎れやすいので、エアコンの風が直接あたらないところが適しています。また、市販の切り花用栄養剤を利用することで、蕾が多く咲くようになり、咲いた花も長持ちします。特に細い枝の場合には効果が高いので、一度試してみてください。



奈良新聞で第1日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
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