奈良新聞掲載記事集

令和5年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和4年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

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令和2年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

柿の実が落ちる

  「柿の実が落ちるのですが、どんな農薬を散布すればいいですか」という問い合わせがよくあります。私たちはこういう質問の場合、まず品種やいつの時期に実が落ちるのかを聞き取りしてから返答するようにしています。というのは、実が落ちる(落果と呼びます)のは、病気や虫の被害によるものだけではないからです。
 まず、6~7月頃に起こる落果についてですが、柿をはじめ多くの果樹類は、受粉して種が入らなければ自ら実を落とします。これを生理的落果といいます。自分の子孫を残すための種が入ってない果実を養う余裕がないという訳です。また、柿はその年に伸びた枝に蕾や果実をたくさん着けるので、着きすぎている場合も樹が弱ってしまわないように自ら実を落とします。生理的落果の程度は品種により大きく違います。例えば『たねなし柿』で知られる渋柿の「刀根早生」や「平核無」は通常、種が入らないにもかかわらず、生理的落果は少なめです。甘柿の「富有」は種が入らないと実が落ちやすく、特に日照不足になる梅雨時期に落果が多くなります。
 次に、この時期にはカキノヘタムシガの被害も発生します。幼虫は6月上旬にヘタ付近から果実の内部に食入し、軸の部分やヘタ近くに木くずのような虫糞を出します。被害を受けた果実は色が変わって軟化し、その後茶色く干からびたまま樹上に残ります。カキノヘタムシガの被害は8月にも発生し、この時期にはヘタを残して落果する果実が多くなります。
 最後に、9月以降に発生する落果は、生理的落果が遅くまで続いている場合もありますが、落葉病が原因の場合が多いです。落葉病が発生すると葉に褐色の斑点が出て紅葉し、通常より早く落葉します。その後、果実は軟化して落ちます。
 このように、柿の実が落ちるといっても、様々な要因があり、品種や落果する時期、果実の状態などにより、生理的なものなのか、病気か虫かを判断することになります。

      カキノヘタムシガの幼虫と虫糞落葉病が発生した葉                                                                              

(写真:カキノヘタムシガの幼虫と虫糞、落葉病が発生した葉)

【豆知識】

○生理的落果の対策
 6~7月に発生する生理的落果が毎年多い場合は、つぼみの数が多すぎるか、果実に種が入っていない可能性があります。つぼみが多い場合はその年に伸びた枝1本あたりにつぼみを1個だけ残す『摘らい』を行います。また、「富有」は雌花しか着かないので、受粉樹として雄花がたくさん着く「禅寺丸」を植えます。通常はミツバチが受粉してくれますが、「禅寺丸」の雄花を取り、直接「富有」の雌花につける『人工授粉』という方法もあります。
○カキノヘタムシガの対策
 虫糞を確認できたら、6月上旬と8月上旬に殺虫剤を散布します。
○落葉病の対策
 梅雨入り前の6月上旬にジマンダイセン水和剤などの殺菌剤を散布すると被害を減らすことができます。また、病気が発生した落ち葉が翌年の伝染源となりますので、落葉後に処分しておくと病気は少しずつ減っていきます。

平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成30年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。