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奈良むかしばなし

 今回は、桜井市にある聖林寺の大きな石のお地蔵さんのお話。
 昔、このお寺に文春和尚(もんしゅんわじょう)という偉いお坊さんがおられた。かねてからお地蔵さんを造りたいと願っていたが、このあたりにはよい石はあるが、仏像を彫る仏師がいない。
 困っていると、ある夜の夢で、但馬(たじま)の国(兵庫県)によい仏師がいると告げられた。翌朝、早速、但馬の国へ出発した。
 夕方、奈良まで来ると、向こうから三人連れの男たちが来た。
「もしもし、どちらへお出かけじゃ」
「はい、私どもは但馬の国の仏師でございます。よい石がなくて困っていましたら、夢で大和に立派な石があると知り、喜び勇んで来ました」
「ほう、それはよかった。私も、夢のお告げで但馬の国に立派な仏師さんがいると教えられ、出かけて来たところじゃ」
 文春和尚は大喜びで、早速、その仏師らを連れて寺へ戻った。
 そして、次の日から、仏師らはお寺でお地蔵さんを彫った。こうして完成したのが、今も、子授け、安産の仏として広く信仰を集めているご本尊のお地蔵さんである。

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 寺伝では、和尚の姉が幾度も出産で難儀したためともいう。今のように医学が進歩していなかった江戸時代、お産にまつわる悲劇も多かったであろう。このお地蔵さんが信仰を集めたわけもうなずける。
 聖林寺は、桜井市の南、多武峰(とうのみね)の談山(たんざん)神社に向かう途中、山並みの中腹にある。高台のお寺から北を望む眺めはまさに絶景。右手に秀麗な稜線の三輪山、その麓に広がる大和盆地には、卑弥呼(ひみこ)の墓ともいわれる箸墓古墳、近くには邪馬台国(やまたいこく)かと注目されている纒向遺跡(まきむくいせき)も。
 明治初年、神仏分離の嵐の中で危機にあった仏像を、芸術作品として再評価したフェノロサ。彼が絶賛した国宝の十一面観音像(検索してね)の寺としても有名だ。
 真冬の冷たい風が肌を刺す中、山麓を流れる寺川の冴えたせせらぎの音が懐かしい。

 

江包(えっつみ)・大西のお綱祭り
(2月11日・国の重要無形民俗文化財)
豊作と子孫繁栄を祈る桜井市の祭り。新藁を持ち寄り、江包地区で男綱(おづな)を、大西地区で女綱(めづな)を作り、素盞鳴(すさのお)神社で合体し、「綱の結婚式」を行う。
問 tel 0744-42-9111(桜井市観光課)
 


「聖林寺」(桜井市下692)へは…
近鉄・JR桜井駅下車、奈良交通バス桜井駅南口から多武峰・談山神社行き「聖林寺前」下車すぐ。国道165号薬師町交差点南へ2.2km。
問 tel 0744-43-0005


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