奈良県教育懇談会からのアピール                    平成16年7月22日

望ましい勤労観・職業観の育成に向けて
〜子どもを自立した社会人に育てよう〜

 今、子どもたちに望ましい勤労観・職業観を育成することが、各方面から求められている。その背景には、フリーターや新卒就職者の離職率の増加、近い将来に予想される若年労働者の不足などへの対応という社会的要請がある。また、家庭においては、親離れや子離れの遅れなどから、就職の決定を先送りしたり、いつまでも経済的に親に依存したりするなど、自立できない若者が増えているという現状がある。働くことは個人の自由に属することかもしれない。しかし、「勤労の権利と義務」は、すべての国民の心構えとして要請されている。

 本来、学校は、子どもたちが将来、社会生活を送るために必要な力や素養を蓄える場である。しかし、これまで、ともすれば学校は社会から隔離された場としてとらえられがちであった。そのために、勤労の尊さや意義を理解する、人や社会の役に立つことを考える、進んで仕事や奉仕活動をするなどの勤労観・職業観の育成が十分に行われてこなかったのではないか。その結果、学校から社会に出る時期になっても、自分はどう生きるのか、何をしたらよいのかが分からず、戸惑う若者が増えているのではないだろうか。
 ここ数年、多くの学校で社会体験学習を導入し、子どもたちに社会や職業を意識させる学習が行われ、一定の成果をあげてきた。しかし現状では、進学率の上昇や根強い学歴志向もあって、社会人や職業人としての将来の生き方を考えるよりも、「とりあえず進学すればいい」という考えが残っている。

 一方、すでに、多くの企業や職場では採用にあたり、学歴よりも、チャレンジ精神、コミュニケーション能力、基礎学力、一般常識、責任感、積極性、実行力、言葉遣いやマナーなど、職業人として必要な力や素養を備えた人材を求めている。学校や家庭でも、このような社会の変化を踏まえながら、子どもたちを自立した社会人として育てるという原点に戻って、教育の在り方を考える必要がある。

 子どもの個性や興味・関心を生かす教育が大切なことは言うまでもない。しかし同時に、集団の中で一人一人が自分の役割を遂行する、責任や義務を果たす、忍耐強く努力するなどの社会性を育てる教育が大切である。望ましい勤労観・職業観の育成を図る教育は、このような個性と社会性のバランスが取れた人間を育てる上でも重要である。

 幼いころから望ましい勤労観・職業観を育てることにより、子どもたちは、将来の社会生活を見通し、夢の実現や目標の達成に向けて、自ら努力するように成長するであろう。特に、小・中・高の12年間、それぞれの発達段階に応じて、体系的な指導を推進することにより、子どもたちが望ましい勤労観・職業観を身に付け、自立した社会人として成長することを期待したい。このような勤労観・職業観に関する教育は、学校だけでなく、家庭や地域、企業や職場が連携・協力することで、より一層の成果が上がるものである。
 ある調査によると、中学生と高校生の約6割が早く大人になりたいと思っておらず、その理由に「子どもでいるほうが楽だから」、「大人になることが不安だから」「大人になってちゃんとやっていける自信がないから」「ずるい人や自分勝手な大人が多いから」などを挙げている。子どもたちの自立が遅れる理由には、このように、社会人になることへの不安に加えて、社会や大人への不信感があることも否定できない。子どもたちからのこの問いかけは、私たち大人すべてに発せられたものとして、重く受け止めなければならないだろう。子どもが自立した社会人として育つためには、子どもたちに生き方のモデルを示すことができる大人であり、子どもたちが夢や希望をもてる社会であることが求められているのである。

 以上のような認識を踏まえて、奈良県教育懇談会では、以下の提案をしたい。 
 今後、関係者の理解のもと、相互に連携・協力して、子どもたちの勤労観・職業観の育成に向けた具体的な取組を推進されるようお願いしたい。
       望ましい勤労観・職業観の育成に向けて(提案)

【学校教育関係者の皆さんへ】
○ 県教育委員会が作成する「小・中・高の12年間を通したキャリア教育プラン」に基
 づいて、各学校が創意工夫しながら、すべての教科等を通して積極的に勤労観・職業
 観の育成に取り組む。
○ 学校行事・学級活動(ホームルーム活動)・生徒会活動などを通じ、一人一人の子
 どもが発達段階に応じて、集団内での役割、義務や責任を果たすことができるように、
 丁寧な指導を行う。
○ 出口指導になりがちであった進路指導から、一人一人の子どもが自分の生き方や職
 業について考え、目標をもって進路選択ができるような指導に転換する。
○ 教員が社会情勢の変化や職業に関する最新の情報を自ら収集し、各教科の学習はも
 ちろん、学級活動(ホームルーム活動)や総合的な学習の時間等を通して、その情報
 を的確に子どもたちに提供する。

【家庭の皆さんへ】
○ 子どもの将来や仕事、社会の仕組みなどについて、家族が一緒に話し合う機会を増
 やす。
○ 家庭において、子どもに役割や仕事(手伝い)を与え、責任をもって最後までやり
 遂げたときには、それを評価することで、達成感を味わわせる。
○ 仕事と金銭との関係や金銭の価値などを教えるために、小遣いの与え方などを工夫
 する。
○ 子ども会活動、奉仕活動等、地域の青少年活動に親子で積極的に参加する。

【企業や職場の皆さんへ】
 望ましい勤労観・職業観を育成するとともに、就職の際に生じるミスマッチを減らす
ために、学校における以下の取組にさらに積極的に協力していただきたい。
○ 大人が働く姿を子どもたちに見せるための職場訪問
○ 子どもたちが実際に体験できる職場体験学習やインターンシップ
○ 子どもたちが仕事や職業について知るためのゲストティーチャーによる授業
    
   杉村会長  矢和多教育長
  
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