第16回奈良県教育懇談会討議の概要


       ◇日時 平成16年3月23日 13:30〜16:30
       ◇場所 私のしごと館 
             関西文化学術都市 (京都府 精華・西木津地区)

◇発言のポイント

 ・子どもたちの勤労観・職業観の育成のためには、学校だけでなく、家庭、企業等広く県民の皆様の
  御協力をお願いしたい。
 ・家庭教育において、年齢に応じた手伝いを意識的にさせることが必要
 ・企業等が従業員の子どもの職場見学を受入れるよう啓発をしてもらいたい。
 ・子どもが生き方のモデルをもつことや、そのためのメディアの役割も大切
 ・親の仕事を見ることは、勤労観・職業観の育成だけでなく様々な効果が期待できる。
 ・夢を実現した人たちの生き方を示し、子どもの情感に訴えよう。
 ・自立しながらみんなとともに生きることを教えよう。
 ・子どもどうしのつながりの中から役割意識や勤労観が身に付くのではないか。
 ・絵画や作文をとおした意識付けも有効
 ・与えられる小遣いの価値を理解させ、使い方を考えさせて金銭感覚を養おう。
 ・誇りをもって働くこと、国民の義務としての勤労の重み等も含めてアピールを。
 ・職業体験は、後で振り返り、自分の生き方に結びつけることが大切

◇議事概要                                
T意見交換

【会長】 前回に引き続き「勤労観・職業観の育成について」をテーマに討議をいただきます。テーマの幅が広く、県民全体にかかわる問題でもありますので、専門調査部会で前回の御意見を整理しました。なぜ勤労観・職業観の育成が求められているのか、なぜ勤労観・職業観が低下しているのか、勤労観・職業観の育成にむけて何ができるのかについて、学校教育、家庭教育、企業等に分けて、お手元の資料のように整理しました。
 さらに、専門調査部会では、その資料を基に検討し、「望ましい勤労観・職業観の育成に向けて〜子どもを健全な社会人に育てよう〜」(案)を作成しています。これにつきまして事務局から御説明願います。
 
(子どもたちの勤労観・職業観の育成のためには、学校だけでなく、家庭、企業等広く県民の皆様の御協力をお願いしたい。) 
                              
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【教育企画課長】 前回の懇談会での討議を踏まえて、過日、専門調査部会でまとめられました「望ましい勤労観・職業観の育成に向けて〜子どもを健全な社会人に育てよう〜」(案)について御説明いたします。
 この文案は、テーマの広がりから考えて、学校、家庭、企業等、県民の皆様に向けてアピールできたらということで作成されたものです。

 子どもたちに望ましい勤労観・職業観が求められる背景には、定職をもたない、いわゆるフリーターや若年無業者の増加、新卒就職者の離職率の上昇などがあり、UFJ総合研究所は、フリーターが2010年には476万人に達するという試算を発表しています。また、厚生労働省の調査では、新卒就職者が3年間で離職する割合が、中卒で約7割、高卒で約5割、大卒で約3割という結果が出ています。若者の意識の問題だけでなく、求人の減少、雇用形態の変化といった企業側の要因もあると思いますが、このような状況の中、教育改革国民会議、青少年の育成に関する有識者懇談会、若者自立・挑戦戦略会議、キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議、経済同友会等各方面から報告や提案が出されるなど、勤労観・職業観の育成を求める社会的な要請が高まっています。
 (案)の前文第1段落では、このような若者を取り巻く現状やそれに対する社会の要請、また、いつまでも親に依存し、経済的に自立できない若者が増えていることなど、家庭での現状や問題について述べています。
 第2段落では、学校は、子どもが健全な社会生活を営む力をつける場ですが、ともすれば、社会から隔離され、職業や生き方を考えるよりも「とりあえず進学すればよい」という傾向が強い現状を述べています。
 第3段落では、企業が採用時に求める能力であるコミュニケーション能力、基礎学力、責任感、積極性、ビジネスマナー行動力、実行力などを厚生労働省の調査結果等から例示し、学校や家庭における、社会の変化に対応した教育の必要性を述べています。
 以上を踏まえ、第4段落では、子どもに責任や義務を果たすことの大切さ、状況に応じて我慢できることの大切さを述べ、第5段落では、子どもが夢の実現や目標の達成に向けて努力することにより、健全な社会人として成長することの大切さを述べています。
 第6段落では、NHK放送文化研究所の意識調査で、早く大人になりたくない中学生、高校生が6割近くになることを挙げ、子どもたちに希望のある社会を示し、子どもを健全な社会人に育てることは大人に課せられた課題であると結んでいます。
 以上を前文として、次の
囲みの欄に学校教育関係者、家庭、企業等への具体的な提案を挙げています。内容は次のとおりです。

 学校教育関係者に対しては、
  ・小・中・高の12年間を通したキャリア教育プラン
  ・社会情勢や職業に関する情報の提供
  ・子どもが役割を自覚し、義務や責任を果たせるような指導
  ・生き方、職業を考える進路指導
 家庭に対しては、
  ・子どもの将来や仕事などについて話し合うこと
  ・家庭での子どもの役割や仕事をやり遂げることの習慣付け
  ・勤労や金銭の価値の理解
  ・子供会活動や奉仕活動への積極的な参加
 企業等に対しては、
  ・「子どもの職場訪問」「職場体験学習やインターンシップ」「ゲストティーチャーとして職業に関す
   る情報の提供」など、学校の取組に対する協力

 以上が「望ましい勤労観・職業観の育成に向けて〜子どもを健全な社会人に育てよう〜」(案)についての説明です。

【会長】 前回に引き続き「勤労観・職業観の育成」をテーマに御意見をいただきたいと思います。事務局から説明のあった「望ましい勤労観・職業観の育成に向けて〜子どもを健全な社会人に育てよう〜」(案)についても修正、追加等の御意見をお願いします。
 
(家庭教育において、年齢に応じた手伝いを意識的にさせることが必要)
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【委員】 以前は家庭に、子どもが手伝う仕事がたくさんあったのですが、いまは、そういうことが少なくなり、親が子どもに手伝いをさせなくなっています。
子どもの年齢に応じた仕事をさせて、できたらほめるなど、親に対して家庭教育の手引きのようなものが必要ではないでしょうか。
 
(企業等が従業員の子どもの職場見学を受入れるよう啓発をしてもらいたい。)
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【委員】 中学2年生の子どもが学校の総合学習の一環として、「私のしごと館」を見学させていただきましたが、自分が将来、このようにして働くのだというイメージをまだもっていないように思います。
 子どもにとって一番身近な職業人である親が、どう働いているかを子どもに見せることは、とてもいいことだと思うのですが、なかなか個人ではやりにくいことだと思います。子どもが親の職場を見学するということが 制度として行われるようになるといいと思います。
 また、企業の中で、従業員の子どもが親の職場を見に来ることが特別なことではなく、教育として価値あることだという考え方が広がってくれば、職場参観は増えるのではないでしょうか。子どもに自分の職場を見せてみたいと思っている親は必ずいると思います。是非、企業の方にそのような意識をもってもらうよう、啓発をしてもらえたらと思います。

「私のしごと館」見学の様子


【委員】 経済同友会からの提言にも子ども参観日が提案されています。外資系の企業で取り上げられ効果が上がっています。古い企業ではなかなか難しいので、まずは県の職場から始めていただくのが効果的ではないでしょうか。
 
(子どもが生き方のモデルをもつことや、そのためのメディアの役割も大切)
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【委員】 以前に、「働くおじさん」というテレビ番組がありましたが、様々な職種が紹介され、職業の世界がわかりやすく描き出されていました。
 テレビなどのメディアの機能にかかわることでお話しします。アメリカでは、陪審員制度が根付いていますが、これは、アメリカ文化やアメリカ人の意識によって自然に根付いたものではなく、日頃から、陪審の広告を流して気分を高揚させるという宣伝効果によるところが大きいのです。学校教育についても、テレビをとおして「働くおじさん」のような番組を見ることによって、働くことへの意識を向上させ、一人一人が役割をもち、社会を支えることの大切さを子どもの心に伝えることができるのではないかと思います。
 以前の中教審答申の中で「期待される人間像」というものがありました。そのとき、私はまだ若くてよくわからなかったのですが、社会人としての生き方についての提言でもあったと思います。生き方としてのモデル、自分が乗り越えたいモデルをもつことが、これから一層必要なのではないでしょうか。
期待されるモデルを先ほどの「働くおじさん」に重ねて広めていけたらと思います。
 
(親の仕事を見ることは、勤労観・職業観の育成だけでなく様々な効果が期待できる。)
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【委員】 経済成長の中で職住分離が進み、自営業の家庭でも、親があまり子どもに仕事を見せていないようです。親が会社員の場合、子どもは、ほとんど親の仕事をくわしく知らない状況です。
 以前、県立教育研究所で親の仕事をテーマにしたビデオ教材がつくられました。その中では、子どもが板金の仕事を初めて手伝う場面や、植木職人であるお父さんの働く姿を子どもが見る場面をとおして仕事の世界を紹介していました。
 親の仕事を知ることにより、家では見られない面、たとえば親の仕事での苦労や気遣いなどがわかり、職業観を養うだけでなく、様々な効果があると実感しています。すでに実施している学校もあると思いますが、さらに広がり、定着していくといいと思います。親が言い出して子どもを連れて行くのは難しいので、たとえば、学校の教育課程の中で位置づけて行うなど、組織の中で取り組むのがいいと思います。
 また、「中学生と進路」という副読本を全生徒にもたせています。進路指導は、進学の指導だけではなくて生き方の問題として指導することが大切であり、この本を活用できるようにしたいと思っています。
 
(夢を実現した人たちの生き方を示し、子どもの情感に訴えよう。)
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【委員】 今日、見学させていただいた中に、自分の夢を実現した人たちについて、いくつかの展示がありました。その人たちがどのように努力して自分の成功物語をつくり上げたのかなどを、生き方のモデルとして学校教育に積極的に取り入れ、子どもの情感に訴えることができるようにすることが大切です。そのことで子どもたちを感化し、自然に勤労観が備わってくるようにする方法が効果的なのではないかと思います。
 
(自立しながらみんなとともに生きることを教えよう。)
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【委員】 私のしごと館でいろいろな分野の仕事についての展示を見せてもらいました。もの作りの仕事のコーナーが印象的でしたが、子どもたちは伝統的な手仕事等をどのように見ていたのでしょうか。
 一人になっても生きていける人づくりとともに、人の間に立つ生き方、みんなとともに生きることを教えることが大切で、企業もそういった能力を求めていると思います。
学校での各教科の学習やすべての活動の中で、「みんなのために、社会のために」という視点をもつことが大切ではないでしょうか。
 
(子どもどうしのつながりの中から役割意識や勤労観が身に付くのではないか。)
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【委員】 今の御意見に同感です。現在、人の生き方に個人主義の行き過ぎを感じることがよくあります。これは、協調性や連帯性、役割意識をもって、ともに支え合って生きる姿の対極にあるものです。
 私たちが小学生のころは、1年生から6年生まで、皆がつながりをもち、6年生は1年生を助けて、1年生は6年生を見て、いつかあんな風になりたいと思う、そういう経験をとおして連帯感や社会性が育ったと思います。
小さいころから身近な人間関係のつながりを密にもち、それを積み重ねることにより、社会での役割や職業をもって働くことの意味を体感することができます。
 
(絵画や作文をとおした意識付けも有効)
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【委員】 「期待される人間像」は、教育基本法にあまり触れられていない部分について書かれたもので、当時の社会は、それを受け入れる状態ではなく埋もれてきたと思います。最近になって見直しの動きが出ていて、経済同友会でも議論を始めています。教育基本法自体を見直そうという意見もあり、みんなの意見を国民の声として届けたらいいと思います。
 以前勤めていた会社で絵画コンクールをしていました。多いときで作品が40万点ほど集まり、選ばれた作品は、ルーブル美術館で展示されました。

 先ほど見学させていただいたしごと館にも、いい作文と絵が展示されていました。小学生はお手伝い、中学生なら親の仕事や将来したい仕事などのテーマで、絵画や作文を通して意識付けをする取組もとても有効な方法だと思います。

【議長】 「望ましい勤労観・職業観の育成に向けて〜子どもを健全な社会人に育てよう〜」(案)についても御意見をお願いします。
 
(与えられる小遣いの価値を理解させ、使い方を考えさせて金銭感覚を養おう。)
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【委員】 案文は、全体的によくまとめられていると思います。
子どもが特定の仕事を完了したときに小遣いを与えるということは、方法としては分かるのですが、大切なのは、小遣いが保護者の勤労によって得たお金から与えられるものであることを理解させ、使い方を考えさせることにより金銭感覚が養われることだと思います。 
 
(誇りをもって働くこと、国民の義務としての勤労の重み等も含めてアピールを。)
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【委員】 「望ましい勤労観・職業観」の「望ましい」とは何かを明らかにする必要があり、誇りをもって仕事をすることの大切さをアピールに盛り込むとよいと思います。
 この(案)は、大人に向けて訴えているものですが、子どもの自立や積極的に伸びていく姿を望むものですから、子どもたちに直接呼びかけるものがあってもいいと思います。

【委員】 勤労は、憲法で定められた国民の義務であり、それだけの重みをもって受け止められるべきだと思います。

【委員】 先行き不透明な時代に、目指すモデルや目標を掲げ、どのような生き方をするかを考えることが大切だと思います。
 
(職業体験は、後で振り返り、自分の生き方に結びつけることが大切)
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【委員】 仕事や生き方のモデルを、憧れではなく、子どもの近いところで、しかも、子どもに見えていない世界を見せることが大切だと思います。進路指導を、出口指導から生き方や職業を考える指導に変えていくことも大切なことです。また、職業体験も、体験が時間とともに終わるのではなく、事後に、話し合ったり、作文などに残したりして振り返ることにより、自分の生き方に結びつけることが必要です。また、そのことにより、周りの子どもにも学習したことが伝わり、互いの考え方を知ることができると思います。

【会長】 いただいた意見を検討・整理し、県民の皆さんに広くアピールできるものにしたいと思います。


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