活かす 奈良県の文化財保護について

奈良県の天然記念物保護について

奈良県は国宝や重要文化財、史跡などに指定された物件が多数あることで著名です。一方天然記念物はこれらの影に隠れがちですが、実際は非常に豊かで魅力的なものです。ここではこれらの天然記念物の、保護の取り組みについて紹介します。

天然記念物保護の取り組み

カモシカ

二見の大ムク

奈良県では3件の特別天然記念物、23件の天然記念物が指定されています。

奈良県の天然記念物は、オオサンショウウオやカモシカといった動物から春日山原始林などの植物、兜岩などの地形まで多様です。

平成30年(2018年)には、天然記念物であるヤマネが県内で47年ぶりに確認されました。
現在奈良県では特別天然記念物オオサンショウウオ、特別天然記念物カモシカ・奈良のシカなどの保護事業を実施しています。

特別天然記念物「オオサンショウウオ」について

今回は天然記念物の保護活動のうち、特別天然記念物オオサンショウウオの保護活動について紹介します。
オオサンショウウオは現在、在来種のものと中国産のものの交雑が全国的に問題となっております。

近年奈良県でも交雑種の増加が確認されており、在来種のオオサンショウウオを保護する活動をおこなっています。

特別天然記念物「オオサンショウウオ」について

今から3000万年前(新生代)のヨーロッパの地層からオオサンショウウオの化石が発見されましたが、その形態は現在のオオサンショウウオとほぼ変わらないものでした。

このことから、オオサンショウウオは3000万年もの間、絶滅することなく存続してきたことが分かり、「生きた化石」と呼ばれています。
我が国のオオサンショウウオは、昭和26年(1951年)に「日本固有の動物で著名なもののうち、学術上貴重で、我が国の自然を記念するもの」として国の天然記念物に指定され、翌27年(1952年)には「天然記念物のうち世界的に又国家的に価値が高いもの」として特別天然記念物に指定されています。また、ワシントン条約では、絶滅危惧種として商業目的の国際取引が禁止されています。

オオサンショウウオの特徴

オオサンショウウオは最大で全長150cmにもなる、世界最大の両生類です。
我が国では、岐阜県以西の水のきれいな河川の中上流域を中心に生息しています。完全水生で、夜行性です。

川魚やサワガニなどを主食とする肉食で、河川生態系における食物連鎖の頂点に位置しているため、
オオサンショウウオを食べる他の生物は存在しません。

オオサンショウウオの繁殖期は9月頃で、一度に数百個のゼリー状の卵を産みます。
約1ヶ月後の10月頃にふ化して、オスに守られながら5cm程になるまでは巣穴の中で過ごします。
そして翌年2月頃に巣立ちます。

約5年で20cm程に成長し、この頃に変態してエラがなくなり、肺呼吸をするようになります。
そして約20年で繁殖行動をするようになります。寿命は70年以上といわれ、年に約2~3cm大きくなり続けますので、個体の全長からおおよその年齢を知ることができます。

中国産オオサンショウウオの流入

現在、オオサンショウウオ科に属するのは、日本の在来種としての「オオサンショウウオ」、中国産の「タイリクオオサンショウウオ」、アメリカ産の「アメリカオオサンショウウオ」の3種です。

このうち中国産のものが日本に持ち込まれ、在来種と交雑した結果、在来種の数が減少しているという問題が起こっています。中国産のものは在来種よりも繁殖力が強いため、そのままにしておくと在来種はいなくなってしまいます。

オオサンショウウオは、その生息地では生物界の頂点に立つ生き物ですから、それが取って代わられてしまうと、生態系は大きな影響を受けてしまいます。
したがって、在来種のオオサンショウウオを保護することは、生態系の保全にもつながる重要なことなのです。

奈良県教育委員会事務局 文化財保護課 前田俊雄氏 に聞く

「オオサンショウウオ」の保護活動について

奈良県における保護活動

保護管理指針の策定

オオサンショウウオが天然記念物に指定されてから保護活動が始まりましたが、従来は主に捕獲等の規制に重点が置かれてきました。その後、平成9年(1997年)に河川法が、同13年(2001年)には土地改良法が改正され、河川及びその周辺に生息する生物と生息環境の保全に配慮することが明記されました。

このような流れを受けて、三重県では同14年(2002年)に「特別天然記念物オオサンショウウオ保護管理指針」が策定され、奈良県ではこれを準用する形で保護活動を行うことになりました。
そして同24年(2012年)には、奈良県と三重県が共同で「特別天然記念物オオサンショウウオ保護管理指針2012」を策定しました。

これにより、両県一体で保護活動を行うことになり、オオサンショウウオの生息している木津川流域全体をカバーする形で保護活動ができるようになりました。

保護活動の内容

ここでは保護活動のうち、生息調査と、工事前の保護調査についてご紹介します。
まず生息調査ですが、これは日没後、夜間に川に出かけて行き、オオサンショウウオを捕獲する調査です。

捕獲したオオサンショウウオは、後日DNA解析によって在来種か交雑種かを判別します。
このうち在来種については、ICチップを埋め込んで捕獲した川に放流します。
ICチップには、個体番号、発見場所・日時、個体の全長・体重などが記録されていますので、
行動範囲や成長過程を把握するのに役立ちます。一方、交雑種については、絶滅危惧種であることには変わりありませんので施設で保護しますが、川に戻すことはありません。

こうして、川には在来種のみが生息している環境になるようにしていきます。
この生息調査では、年間約200匹を捕獲・調査しています。

次に工事前の保護調査ですが、これは河川工事の着手前に工事箇所の川の水を抜いて、オオサンショウウオを保護する調査です。オオサンショウウオが見つかれば施設で保護し、工事終了後に原則として元の場所に戻します。主に宇陀郡と山添村で行われています。

保護活動において苦労している点

オオサンショウウオの生息調査は基本的に夜間に行われますので、作業実施スケジュールを立てるのには、細心の注意を払います。

また、保護活動は専門の先生方の指導のもとで実施していますが、後継者不足が危惧されています。

今後の保護活動

全国的に見ても、奈良県はオオサンショウウオの保護活動を活発に行っている地域ですが、改善が必要な点もあります。
例えば、奈良県にはオオサンショウウオの一時保護施設がないという点です。

現在は三重県の協力を得ていますが、ゆくゆくは奈良県でも対策を検討していかなくてはならないと思います。

オオサンショウウオの保護は、地道な作業の積み重ねであり、たゆまぬ努力が必要とされます。
しかも、保護には長大な期間がかかる反面、絶滅までの時間はきわめて短期間です。

したがって、オオサンショウウオを次代に残していくために、今後も保護活動を継続していくことが何よりも重要であると考えています。