答申第42号
答 申
第1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の非開示部分のうち、次
の部分を開示すべきである。
・設計書(本工事費内訳表)に記載されている工事費中、消費税相当額及び工事
価格
第2 諮問事案の概要
1 公文書の開示請求
異議申立人は、平成12年8月25日、奈良県情報公開条例(平成8年3月
奈良県条例第28号。以下「条例」という。)第5条の規定に基づき、奈良県
知事(以下「実施機関」という。)に対し、「大塔村篠原の舟ノ川砂防工事に
関する一切の文書」の開示請求(以下「本件開示請求」という。)を行った。
2 実施機関の決定
平成12年9月8日、実施機関は、本件開示請求に対応する公文書として、
次の公文書(以下「本件公文書」という。)を特定した上で、本件公文書のう
ち、次の「(1)開示しないことと決定した部分」を除いて開示する旨の公文
書の一部開示決定(以下「本件処分」という。)を行い、次の「(2)開示し
ない理由」を付して、異議申立人に通知した。
・ 事業執行伺書(実施設計書、本工事費内訳表等)、工事起工承認について、
工事請負契約書の進達について(開札録等入札関係書類)、支出負担行為(
変更)決議書(建設工事(変更)請負契約書、課税事業者届出書、保証証書
等)、工事金部分払(工事金年度精算)検査書(工事出来形検査請求書、検
査写真等)
(1) 開示しないことと決定した部分(以下「本件非開示部分」という。)
@ 設計書(本工事費内訳表)の単価、金額(設計総額を除く)、費目欄の
金額計算式
A 保証証書の預託金融機関名、支店名、口座種別、口座番号
B 入札書の代理人の印影
(2) 開示しない理由
@ 条例第10条第8号に該当
設計単価等は事業執行過程等情報であって、開示することにより特定の
ものに不当な利益若しくは不利益が生じるおそれがあり、また将来の同種
の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生じるおそれがあるため。
A 条例第10条第3号に該当
法人(保証契約者)の経理上の内部管理に関する情報であって、開示す
ることにより当該法人の事業運営上の正当な利益が損なわれると認められ
るため。
B 条例第10条第2号に該当
個人に関する情報であって、特定の個人が識別されるため。
3 異議申立て
異議申立人は、平成12年10月2日、本件処分を不服として、行政不服審
査法(昭和37年法律第160号)第6条の規定に基づき、実施機関に対し、
本件処分の取消しを求める異議申立てを行った。
4 諮 問
平成12年10月11日、実施機関は、条例第13条第1項の規定に基づき、
奈良県情報公開審査会(以下「当審査会」という。)に対して、当該異議申立
てに係る諮問(以下「本件事案」という。)を行った。
第3 異議申立人の主張要旨
1 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、本件処分の取消しを求めるというものである。
2 異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書において主張している異議申立ての理由は、概ね
次のとおりである。なお、意義申立人から意見書の提出及び口頭意見陳述はな
かった。
(1)異議申立ての趣旨
一部開示決定処分のすべてについて取消しを求める。
(2)異議申立ての理由
いずれも条例第10条各号に該当しない。
第4 実施機関の説明要旨
実施機関が、理由説明書及び口頭理由説明等において説明している本件処分
の理由は、概ね次のとおりである。
1 条例第10条第2号該当性について
(1)入札者の代理人の印影
この情報は、特定の個人が識別させるものであって、条例第10条第2号
本文に該当するものである。
また、法令等の規定により何人でも閲覧することができる情報、公表する
ことを目的とした情報に該当しないことは明らかであり、また、法令等の規
定による許可等の際に作成し、又は取得した情報であって、これを開示する
ことが公益上必要であると認められないため、本号ただし書ア、イ、ウのい
ずれにも該当せず、これらは非開示が妥当であると判断した。
2 条例第10条第3号該当性について
(1)保証証書の預託金融機関名、支店名、口座種別、口座番号
この情報は、保証契約者の経理上の内部管理に関する情報であって、開示
することにより当該法人の競争上又は事業運営上の地位、社会的信用その他
正当な利益が損なわれる情報であると判断した。
3 条例第10条第8号該当性について
(1)設計書の単価、金額、費目欄の金額計算式
設計書に記載されている施工単価等は実施機関が行う入札の事務事業に関
する情報であるため、開示することにより、施工単価等をもとに今後の同種
工事の入札に参加しょうとする業者にとって工事の予定価格等を正確に推知
することが可能となり、開示を受けた特定の者に対して不当な利益又は不利
益をもたらすおそれがある情報である。
さらに、開示を受けた入札参加業者は、将来の同種工事の入札において安
易に予定価格等を推知できることから、独自に見積もりを行う努力をしなく
なり、また競争性の確保に支障をきたすおそれがあるため、将来の同種の事
務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生じるおそれのある情報である
と判断した。
第5 審査会の判断理由
当審査会は、本件事案について審査した結果、次のとおり判断する。
1 基本的な考え方
条例は、その第1条にあるように、県民の公文書の開示を求める権利を明ら
かにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることに
より、県政に対する県民の理解と信頼を深め、県民の県政への参加を促進し、
もって公正で開かれた県民本位の県政を一層推進することを目的として制定さ
れたものである。
さらに、条例の解釈・運用に当たっては、その第3条に明記されているよう
に、この県民の公文書開示請求権を十分尊重する見地から行わなければならな
い。
しかし、この公文書開示請求権も、絶対的で無制限な権利ではなく、条例第
10条の規定が置かれていることからも明らかなように、この権利と、請求さ
れた公文書に情報が記録されている個人又は法人その他の団体の権利利益及び
公益との調和を図る必要があるのである。
したがって、公文書を開示するかどうかの判断は、あくまでも、請求された
公文書に記録されている情報が、条例第10条各号に規定された非開示事項に
該当するかどうかによって決せられるべきものである。
よって、当審査会は、原則開示の理念に照らし、本件公文書が、条例第10
条各号に該当するかどうかを、その文理及び趣旨に従って判断するとともに、
本件事案の内容に即し、個別、具体的に判断することとする。
2 条例第10条第2号該当性について
条例第10条第2号本文は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事
業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得
るもの」に該当する情報が記録されている公文書については、基本的人権を尊
重し、個人の尊厳を守る立場から、個人のプライバシーを最大限保護するため、
実施機関は、当該情報が記録された公文書の開示をしないことができると規定
している。
個人のプライバシー概念は、抽象的であり、その具体的な内容や保護すべき
範囲が明確でなく、個人情報は一度開示されるとその被害回復はほとんど不可
能であるため、本条例では、広く個人に関する情報について、特定の個人が識
別され得る情報を非開示としている。
すなわち、本号にいう「個人に関する情報」とは、氏名、住所のほか、思想、
信条、信仰、職業、資格、学歴、収入、資産等、個人に関する一切の情報をい
い、「特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」とは、特定の個人が明
らかに識別され、又は識別され得る可能性がある場合をいうものである。
本号ただし書きは、本号本文に該当する情報であっても、「ア、法令等の規
定により何人でも閲覧することができる情報」「イ、公表することを目的とし
て実施機関が作成し、又は取得した情報」「ウ、法令等の規定による許可、免
許、届出等の際に実施機関が作成し、又は取得した情報であって、開示するこ
とが公益上必要であると認められるもの」のいずれかに該当する情報について
は、開示することができると定めている。
実施機関は、次のいずれの個人情報についても、本号本文に該当し、同号た
だし書いずれにも該当しないとしているので、これについて検討する。
(1) 入札書の入札者の代理人の印影
ア 条例第10条第2号本文について
入札書及び委任状には、入札者から入札に関する一切の行為を委任された者を
示す情報として、入札者の代理人の印影が記載されている。これは、特定の個人
が識別される情報と認められ、本号本文に該当する。
イ 条例第10条第2号ただし書について
入札書の入札者の代理人の印影は、本号ただし書ア及びウに該当しないことは
明らかであるので、本号ただし書イについて検討する。
本件公文書のうち、土木工事の入札及び契約手続の透明性の向上を図る動きの
なかで、入札者の代理人の氏名については、公表することを目的として実施機関
が取得した情報であると認められるとして既に開示しているところであるが、印
影については、これに該当するとは言えない。
ウ まとめ
したがって、本件公文書の入札者の代理人の印影は、条例第10条第2号に該
当すると判断する。
3 条例第10条第3号該当性について
条例第10条第3号本文は、「法人(国及び地方公共団体を除く。)その他
の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事
業に関する情報であって、開示することにより、当該法人等又は当該事業を営
む個人の競争上又は事業運営上の地位、社会的信用その他正当な利益が損なわ
れると認められるもの」に該当する情報が記録されている公文書については、
法人等及び事業を営む個人(以下「事業者」という。)の事業活動の自由を原
則として保障しようとする趣旨から、実施機関は、当該情報が記録された公文
書の開示をしないことができると規定している。 したがって、本号本文に該
当するためには、本文の「法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業
に関する情報」であること及び「開示することにより、当該法人等又は当該事
業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位、社会的信用その他正当な利益が
損なわれると認められるもの」に該当することが必要である。
実施機関は、次のいずれの情報についても、本号本文に該当するとして、こ
れらの部分を非開示としているので、これについて検討する。
(1) 保証証書に記載されている預託金融機関名、支店名、口座種類、口座番号
ア 条例第10条第3号本文について
まず、保証証書に記載されている預託金融機関名、支店名、口座種類、
口座番号は、法人の事業活動に関する情報であることは明白であるので、
本号本文前段に該当する。
次に、その預託金機関名等は、当該法人が事業活動を行う上での重要な
経理等の内部管理に関する情報であり、当該法人が取引関係にない者にま
で積極的に公表しているものではなく、また、広く一般に知られていると
も認められない。これらの情報は、どの範囲で誰に対して情報を明らかに
するかは、法人が自ら選択できるものであり、法人の同意もなく、法人の
事業活動と無関係に広く開示することは、法人の正当な利益が損なわれる
と認められ、よって、本号本文後段に該当する。
イ 条例第10条第3号ただし書きについて
さらに、これらの情報は、前述のとおり、当該法人が事業活動を行う上
での重要な経理等の内部管理に関する情報であり、人の生命、身体、健康、
財産又は生活を保護するために、開示することが必要であると認められる
情報ではなく、また、開示することが公益上必要であると認められる情報
にも当たらないことは明白であり、本号ただし書のいずれにも該当しない。
ウ まとめ
したがって、保証証書に記載されている預託金融機関名、支店名、口座
種類、口座番号は、条例第10条第3号に該当する情報であると判断する。
4 条例第10条第8号該当性について
条例第10条第8号は、「県又は国等が行う取締り、監査、検査、許可、認
可、試験、入札、交渉、渉外、争訟、人事その他の事務事業に関する情報であ
って、開示することにより、当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるも
の、特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの、関係
当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損なわれると認められるもの又は当該
事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が
生ずるおそれがあるもの」に該当する情報が記録されている公文書については、
実施機関は当該公文書の開示をしないことができると規定している。
本号は、県又は国等が行う事務事業の内容及び性質からみて、開示すること
により、当該事務事業の目的が損なわれ、又は公正かつ円滑な執行ができなく
なるなど、県民全体の利益を著しく損なうこととなるおそれがある情報は、非
開示とすることを定めたものである。
実施機関は、設計書(本工事内訳表)に記載されている単価、金額、費目欄
の金額計算式は、開示することにより、特定のものに不当な利益若しくは不利
益が生じるおそれがあり、また、将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行
に著しい支障を生じるおそれがあることから、本号に該当するとしているので、
これについて以下検討する。
(1)設計書(本工事内訳表)に記載されている単価、金額、費目欄の金額計算式
ア 条例第10条第8号前段要件該当性について
当該公文書は、実施機関が発注した小原川(通称 舟の川)の砂防工事
に関する情報が記載されている。
本号に規定されている事務事業とは、条文に具体的に例示されている事
務事業に限定されず、県または国等の機関が行う一切の事務事業をいうも
のと解される。
したがって、本件公文書に記載されている実施機関が発注した小原川(
通称舟の川)の砂防工事に関する情報は、本号に規定する事務事業に関す
る情報であると認められる。
イ 条例第10条第8号後段要件該当性について
まず、本件非開示部分の情報が開示された場合、本号後段要件である、
今後発注される同種の工事の入札事務の際、設計金額及び予定価格を容易
に類推できるかどうかについて検討する。
設計金額は、実施機関の職員が、対象工事につき最適であると考えられ
る標準的な施工方法を想定し、標準的な施工能力を持つ業者がそれぞれの
現場条件に応じて工事を施工する場合に必要と思われる適正な費用を予め
算出した金額である。
その金額は、工事を構成する工種ごとの数量と施工単価の積の総和から
成り立っている直接工事費とそれに応じて率計算で算定される間接工事費
の合計の額である。
その施工単価は、見積により決定されるものを除き、公表若しくは市販
されている資材単価、公共工事設計労務単価、建設物価等により算出され
るものであるが、適正な施工単価は、寸法・規格に応じた適正な価格の選
定、歩掛適用基準、施工条件による適正な歩掛の選定及び組み合わせ等を
考慮して決定しているものであり、現場の施工条件によって異なってくる
ものである。
しかし、同種の施工条件の下での工事については、工種ごとの施工単価
はほぼ同じ金額となることから、これを開示すれば、今後の同種の工事に
ついて、入札参加者は、入札前に提示されている設計図書の工種ごとの数
量から設計金額を容易に類推することが可能となる。また、競争入札の落
札金額を決定するための予定価格についても、設計金額を基礎として近似
の額で設定されていることから、おおむね設計金額から類推することが可
能となる。
次に、今後発注される同種の工事設計金額及び予定価格が容易に類推で
きることにより、円滑な執行に著しい支障が生じるおそれがあるかどうか
について検討する。
建設省の諮問機関である中央建設業審議会において、平成10年2月、
不正な入札の抑止力となり得ることや積算の妥当性の向上に資することか
ら、予定価格を入札後に公表することは適当であるが、予定価格の事前公
表については、予定価格が事前に明らかになると、予定価格が目安となっ
て適正な競争が制限され、落札価格が高止まりとなること、建設業者の見
積り努力を損なわせることなどの理由から行われておらず、入札前に公表
することは、透明性、競争性の確保や予定価格の上限拘束性の在り方と併
せ、今後の長期的な検討課題とすることが適切であるという建議が出され
ているところである。
入札又は契約を終えている工事の施工単価を開示すれば、予定価格を事
前公表した場合と同様に、今後発注される同種の工事の予定価格を容易に
類推されることとなり、予定価格が目安となって適正な競争が制限され、
落札価格が高止まりとなる可能性が認められるとともに、実施機関が行う
競争入札の目的の一つとして、入札参加業者の見積り努力を通じて、業者
の当該工事に対する受注意欲、施工能力及び業者の特性も審査するところ、
設計金額があらかじめ公開されることとなれば、業者の技術力や特性を考
慮した上での真摯な見積りが行われず、類推される予定価格にとらわれた
安易な受注となり、当該工事若しくは将来の同種の工事の施工に当たって、
工事の品質管理及び工事期間等が杜撰になるとの実施機関の懸念も理由が
あるものと認められる。
よって、当該事業若しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行
に著しい支障が生じるおそれがあると認められる。
また、特定の入札参加業者にこれらの情報を開示することは、入札に当
たり、当該情報を得たものと得ていないものとの間に不公平が生じるとと
もに、特定の業者に対し不当な利益をもたらすおそれがあることも認めら
れる。
ウ まとめ
したがって、設計書(本工事内訳表)に記載されている単価、金額、費
目欄の金額計算式については、設計書(本工事費内訳表)に記載されてい
る工事費の内の消費税相当額及び工事価格を除き、条例第10条第8号に
該当する情報であると判断する。
なお、設計書(本工事費内訳表)に記載されている工事費中、消費税相
当額及びそれを差し引いた工事価格については、既に工事費計が明らかに
されていることから、算出が可能であり、これらは開示すべきであると判
断する。
5 結 論
以上の事実及び理由により、当審査会は「第1 審査会の結論」のとおり判
断する。
第6 審査会の審査経過
当審査会の審査経過は別紙のとおりである。
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| 年 月 日 | 審 査 経 過 |
| 平成12年10月11日 | ・ 実施機関から諮問を受けた。 |
| 平成12年10月25日 | ・ 実施機関から理由説明書の提出を受けた。 |
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平成12年11月29日 (第48回審査会) |
・ 実施機関から非開示理由等を聴取した。 ・ 事案の審議を行った。 |
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平成12年12月27日 (第49回審査会) |
・ 事案の審議を行った。 |
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平成13年 1月24日 (第50回審査会) |
・ 答申案のとりまとめを行った。 |
| 平成13年 2月 2日 | ・ 実施機関に対して答申を行った。 |