株式会社JITSUGYO

JITSUGYO

株式会社JITSUGYO(奈良市)


発想から発送まで
奈良の小さな印刷会社がなぜ提案力で大手広告代理店に勝てるのか?

今年で創業61年目を迎えた印刷会社、株式会社JITSUGYO。
営業部と制作部、事務所そして工場がひとつの敷地にあり、お客様との相談から企画・デザイン、印刷・出版、そしてWeb広報までを担っている、従業員数22名の小さな会社です。

10年ぐらい前の印刷会社は、原稿を正確にデータ化し、工場でどんどん刷る。納期に間に合うよう印刷物という“モノ”にするという商いだったようですが、ネットの印刷会社も台頭してきている中、JITSUGYOはどこで他社との差別化をはかっているのでしょうか?



"モノ"づくりではなく、"コト"づくり

JITSUGYO
まずは代表取締役社長の沢井啓秀(さわいよしひで)さんに、お話をお伺いしました。

実は、印刷工程はやりたいことの一部でしかないと沢井さん。
ただクライアントが作りたいものを引き受けるのではなく、「伝えたいコト」、「伝えるコト」をお手伝いしている感覚だそう。

例えば、奈良県のお漬物屋さんから「セロリの奈良漬けを売るためのツールをつくりたい」と相談を受けたとき、その商品を誰に届けたいか、どうして届けたいのか、お漬物屋さんと徹底的に話し合いを重ねていきます。セロリは食物繊維が豊富で美容にもいい。発酵食品の奈良漬けと合わさることで、健康を意識する人にもってこい。そして、古いイメージの奈良漬けを嫌厭しがちな若者に、奈良漬けの新しい味わいを感じて欲しい。 このケースは若い女性を意識した紙やデザインを考えパッケージを提案したそうです。

「我々は印刷会社というカテゴリーではあるんですけれど、実は、“印刷”というのは、あくまで私たちにとってモノをつくる流れのほんの一部分でしかありません。なにをつくるのか、なにを伝えるのかをお客さんと徹底的に相談し、一からカタチにしていきます。」



奈良の特別を演出する「コトづくり」は大手にも負けません

奈良で創業してから約60年間、徹底してつづけていること。それは、奈良とのつながりです。

「我々の土俵は奈良県。奈良のこと、特に観光に関しては強みとして持っていきたいと思っています。大手の広告代理店さんが奈良に来てコンペに参加されても、地元の人とのつながりや奈良の観光に関する情報力、そしてそれを誰に向けてどう届けるかという編集力、これらがあるから私たちはコンペに勝つことができます。常に奈良のことを考えていますので!」



もっと多くの人が奈良に来てほしい。北部だけでなく南部にも足をのばして、1日でも滞在時間を長くして宿泊してもらいたい。そんな思いとクライアントの要望で生まれたのが、奈良の観光雑誌“祈りの回廊”。


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JITSUGYOは、祈りの回廊の読者層を「歴史が好きな人」と仮定しその方々が好みそうな特集記事をどんとだしています。この冊子には連動したキャンペーンが設けられています。

「この祈りの回廊という冊子では、奈良の各社寺で365日1年に数日間だけ行われる秘宝秘仏の特別開帳を紹介しています。誌面の情報を読者の行動に結びつけるアイデアとしてできることはなにか。いろいろな意見を交換する中で生み出したのが、秘宝秘仏開帳をされている58社寺の「オリジナルポストカード(非売品)」を作成し、開帳時期にしかもらえない「ポストカード」を集めながら秘宝秘仏をめぐる企画です。この企画で来訪された方にとっては、その日にしかみられない仏像と対面できる特別な日となるでしょう。」



“そのときだけしか見られない”に、“そこだけでしかもらえない”という付加価値が加わったアイデアです。実際に、「祈りの回廊」の読者アンケートで、「また奈良に来たいと思う」と回答した人が100%だったのが大きな成果と言えるでしょう。




JITSUGYOのコーポレートメッセージは破壊・挑戦・調和。
次に破壊したいものは、今の「働き方」!

「例えば、8時半から17時15分という決まった勤務時間を取り払いたいです。私たちはクリエイティブな仕事をするうえでは、社員だけでなく、奈良で活躍するエディターさんやイラストレーターさん、写真家さんといったさまざまな専門性を持った人たちとチームを結成することが不可欠です。そういったフリーランスで仕事をされている方と一緒に働いていると、家族との時間を最優先にしている方にも多く出会います。そんな出会いの中で、この会社も自分にあった時間や場所で多様な働き方ができるよう変えていけたらと考えています。」



“目的を達成していれば、手段は何でもいい”が沢井さんのスタンス。
働き方を破壊するために、まず仕事の進捗を共有できるツールや、どこでもミーティングができるビデオチャットの使用に着手しているとのこと。




“コト”がつくられる“トコロ”とは?

JITSUGYO
(奈良市内にあるJITSUGYOの社屋)


見晴らしの良い場所に突如として現れたように建つJITSUGYOの開放的な社屋は、ガラスの壁により奥まで見通せる構造。また、回廊で囲まれた内部も、部屋と部屋との境界がなく、“声がかけやすい”開かれた空間になっています。

そのため、どこで話をしていてもみんなに聞こえるのだとか。ひとつの会話にみんなが参加でき、話し合いが活発になるそう。


JITSUGYO
(会社のデスクは、コミュニケーションが自然と取れるような形になっている。)


JITSUGYO
(営業部には色や紙の見本帳がずらり)
この中からお客様の思いに“ぴったり”を探します。


JITSUGYO
JITSUGYO
(活版印刷機(上)と活版印刷で作製された名刺(下))


これはドイツ製「ハイデルベルクKSB」の活版印刷機です。
この印刷機を動かせる職人は、社内で1人だけです。活版印刷機で刷り上がる印刷物は最新のそれと比べてきれいではないのだけれど、凹凸やにじみなどの味わいがあるのだとか。頂いた名刺も活版印刷機で印刷されたものでした。確かに味があって粋です。




ただただ奈良が好き、女性ロールモデル金子幸加(かねこゆか)さん
仕事もプライベートも一緒くたな働き方

JITSUGYO
次にお話を伺ったのが、入社4年目の金子さん。JITSUGYOの営業部に所属しています。

― はじめにJITSUGYOを志望した理由を教えてください。

「就職を考える上で一番根底にあったのは、奈良で何かしたいという思いです。また、奈良女子大学在学中に友人とフリーペーパーをつくっていたのですが、取材にいって、原稿をかいて、デザインして、冊子にする。その工程が楽しく、好きだなと。」


奈良女子大学の仲間におしゃれなカフェやならまち、高畑など自分の好きな場所を紹介したいという思いがどんどんと強くなり、その頃、ちょうど奈良県主催の就職説明会でJITSUGYOをみつけ、ピンときたそう。

― 金子さんは普段どのように働き、どのようにプライベートを過ごしているのですか。

「仕事終わりには、よくライブハウスにいって生の音楽を楽しみます。趣味の時間なのですが、ライブハウスで出会った人に、奈良の印刷会社で働いていて、こういう仕事をしているんです!と一種の営業もしています(笑)。実際にライブハウスで知り合った人がお客さんになっていることもありますね。私にとっては、仕事もプライベートもまるっと一緒くたなんです。」



一日の過ごし方に、彼女の仕事もプライベートも楽しむ秘訣がありました。仕事においても大好きな奈良をめぐる、大好きな奈良を伝えるということで、好きなことをしている感覚とのこと。


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― さて、金子さんが所属するのは営業部門。営業と聞くと、どうしても男性のイメージがあります。実際のところどうなのですか。

「やはり、まだまだ男部門ですね。女性ができない仕事という意味ではなく、時間の融通がききにくいという面で厳しいのかなという印象です。特に、この仕事はもっと良いモノを作りたい!と思うとその分時間を費やしたくなってしまうので、ついつい残業が多くなります。私は、今日は夜まで時間を使って企画書を練ろうとか、明日は定時で帰ろうとか、なるべく自分でメリハリをつけて働くようにしています。この会社も自由にやらせてくださるので。有休もたくさん消化しています。(笑)」



どの部署においても働いていくうえでの男女の差はないそう。制作部は女性のほうが多いが、だからといって女性だけに適しているとは思わない。営業部もしかり。時間や場所にこだわらず働けるようになるなど、働き方が多様化したら営業職にも女性が増えるのではないでしょうかと金子さん。



― 結婚や出産と、これからライフステージが変化するのではないですか。

「社員数も少ないので、産休や育休など制度を実際にとっている方をみる機会はあまりないのですが、そうしたことを含めても会社に対して不安はないです。根拠として、なにより社内の雰囲気がいいことです。営業職はお客様ありきなので引き継ぎが大変かなと思いますが、職場の人たちも女性の営業職ということで将来的にはそういうこともあるだろうと考えているのではないかな。」



― 最後に今後の抱負を教えてください。

「この仕事のように奈良に関わることをずっと続けていきたいです。そして仕事でもプライベートでも奈良の面白さに出会えてない人に奈良ってこんなに面白いんだよと伝えたいです。ゆくゆくは“奈良と言えば金子さん”といわれるようになれたらなと。(笑) 仕事もプライベートもまるっと一緒くたにやっていきます!」


編集後記
-大学生プロジェクトメンバーより-

今回の取材を通じて、私たちが持っていた「印刷会社」のイメージは、良い意味で大きく覆されました。大手にも負けない企画・デザインなどは、誰に向けて伝え、どう届けるのかという「編集力」を長年かけて身につけてこられたからこそできる、JITSUGYOさんの強みなのだと思います。

奈良の魅力って言葉にしづらくないですか?
奈良に魅力を感じているが、「奈良のいいところ」を伝えるのに苦戦しているという方は多いのではないでしょうか。

今回JITSUGYOさんにお邪魔して、ここでならこの「奈良の何とも言えぬ魅力」をカタチにできるのではないかと思いました。ご紹介したとおり、JITSUGYOさんにとって印刷物は「思いを伝える手段」といえます。

情報の発信やPRの仕事がしたいと思っている方!その仕事、今は広告業界じゃなくてもできるみたいですよ!

また、ロールモデル女性の金子さんの働き方・生き方は、仕事とプライベートのバランスを取るような「ワークとライフ」ではなく、働くことが「ワークでありライフでもある」という印象を受けました。とてもステキな働き方だと思います!

JITSUGYO
(EXPO当日に来てくださるのは、取材に答えてくださった金子さん(左)とワーキングマザーの中村さん(右)です!)




株式会社JITSUGYO

主な業種:印刷業
所在地:奈良市東九条町6-6
従業員数:正規職員22人(女性10人)
事業内容:印刷物、電子ブック、ホームページ等の企画制作及び商品化と販売
HP:http://www.jitsugyo.jp


取材担当:奈良女子大学3年生 岡本夏美、岡田さくら


記事作成:平成30年9月19日

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