【レポート】奈良県立美術館「所蔵名品展 奈良県美から始める展覧会遊覧」
【ナラプラス現地リポート】(令和4年3月)
“奈良県のお宝”の魅力を再発信する企画展

奈良県立美術館で「所蔵名品展 奈良県美から始める展覧会遊覧」が開催中です(3月27日まで)。
奈良県立美術館は、1969年に京都市在住の日本画家・風俗史研究家である吉川観方氏よりコレクションの一部の寄贈を受けたことが創立のきっかけとなりました。その後も篤志家から数々の寄贈を受け、鎌倉時代から現代までの日本美術を中心に収集してきました。
今回の企画展では、日本の書画・洋画・彫刻・陶磁器・染織品・刀剣甲冑・浮世絵・ポスターデザインなど、極めて多様な奈良県立美術館のコレクションを、「寄贈者の好み」と「奈良ゆかりの美術」という2テーマで展示し、“奈良県のお宝” の魅力を再発信しています。
また、あえて作品展示の並びをランダムにしてみたり、一部作品を撮影可とし、美術作品と写真撮影の関係について再考をうながす文言を添えるなど、従来の枠組みにとらわれないユニークな試みも注目です。
この作品をどう説明する?考えながら楽しむ展示に

最初の展示室には「『奈良県美』所蔵品について」というタイトルが付けられています。今回の企画展を象徴する内容で、奈良県立美術館が所蔵している作品の傾向などが、ひと目で見て取れます。

同館の作品の中でもっとも問い合わせが多い≪伝 淀殿画像≫を筆頭に、伝曾我蕭白≪瀧山水図≫、白髪一雄≪作品≫、不染鉄≪秋色山村≫と並び、さらに奈良ゆかりの富本憲吉、田中一光の作品が展示されています。
一部は写真撮影も可能となっており、「この部屋だけで入館料分の価値はあるかもしれません。」と胸を張られるほどの豪華な内容です!

続く展示室のテーマは「みんなで作品解説してみよう」。日本画と洋画、染織品、抽象的な造形作品や絵画など、ランダムに近い、ある意味では挑戦的ともいえる展示構成となっています。それぞれがストーリーを思い浮かべながら鑑賞してほしいとの想いが込められているとか。

有名な浮世絵作品、歌川広重≪名所江戸百景 浅草金龍山≫、葛飾北斎≪富嶽三十六景 相州七里浜≫。いずれも写真撮影可能です。カメラに収めることで「美術館に来た」という経験が残りやすくなる側面もあることから、今後もこうした取組は増えていくのでしょう。

江戸時代(17世紀)に描かれた、狩野探幽≪春日若宮御祭図屏風≫も撮影可能です。1136年から途切れることなく続く、大和一国を挙げて盛大に執り行われた祭礼の、華やかな様子が伺えます。
創立のきっかけとなった吉川観方氏のコレクション

続いての展示は「吉川観方のコレクション」がテーマです。風俗史や服飾史の研究家であった氏の審美眼が感じられるラインナップですが、仏画や日本画など、日本文化に幅広い関心を持っていたことがうかがえます。

竹久夢二≪雪中子抱き美人図≫など。
奈良県立美術館は、吉川観方氏のこういったコレクションの寄贈を受けたことが創立のきっかけとなりました。しかし、氏は京都で活躍していた人物であり、なぜ奈良への寄贈を選んだのか明確な理由は不明なのだとか。
会場では、絵画だけではなく衣類や鎧なども展示されています。コレクションの幅が広く、貪欲なまでの知識欲や蒐集欲の一端が感じられるようでした。
収蔵作品のバラエティの豊かさ、クオリティの高さを実感

続いての展示室は「奈良県美ゆかりの作家と作品1 -工芸編-」です。
同館は、奈良にゆかりのある美術工芸家の作品を数多く収蔵しており、人間国宝の陶芸家・富本憲吉(安堵町出身)の作品はとくに充実しています。今回も代表作が惜しげもなく展示されていて、作風の変遷が見てて取れます

富本憲吉≪色絵松模様飾皿≫、≪色絵「春夏秋冬」字瓢型飾壺≫など。
奈良を代表する漆芸家であり、正倉院宝物の模造を手がけたことでも知られる北村大通・昭斎父子の作品などもあわせて展示されています。

「大橋嘉一のコレクション」をテーマにした展示室では、白髪一雄≪十界の内、天・人間界≫(※撮影可)、≪喜≫など、近代の抽象作品が中心です。
実業家・化学者であった大橋氏は、1950~70年代初めにかけての日本の美術界をサポートした、パトロンでありコレクターだった人物です。

奈良県美ゆかりの作家と作品を展示した一室では、大正時代に、作家・志賀直哉を中心として奈良市高畑町に集った、いわゆる「高畑サロン」に関わった周辺の洋画家の作品を中心に展示しています。
山下繁雄≪軍鶏≫、浜田葆光≪水辺の鹿≫、不染鉄≪奈良風景≫など、奈良らしい名作揃いです。

木と鉄を用いた抽象的な造形作品、菅原安男≪アニマル≫や、文化勲章を受賞された絹谷幸二氏の作品≪チェスキーニ氏の肖像≫≪大和遠望≫など、バラエティ豊か。平山郁夫≪長安の残輝≫なども展示されており、とにかく豪華ラインナップです!

最後の「奈良県ゆかりの文化人のコレクション」では、現在の奈良市柳生町に生まれた哲学博士・由良哲次氏の寄贈作品を中心に展示しています。
日本美術にも造詣が深く、雪舟や東洲斎写楽などの研究も行っていた方で、池大雅≪夏山水図≫、伝 渡辺崋山≪牡丹図≫など、著名な作者の作品がずらりと並びます。この部屋の展示作品は、基本的にほぼ撮影可能です。

今回の企画展を拝見して、あらためて同館の収蔵作品のバラエティの豊かさと、クオリティの高さが実感できました。美術初心者の方も、きっと心に響く作品が見つかるでしょう。ぜひ地元の美術館の素晴らしさを再認識するきっかけとしてください。

また、ギャラリーでは、NPO法人文化創造アルカによる連携展示「発見!奈良きたまち-重ねるまなざし-」が開催されています(観覧無料)。こちらもとても興味深い内容ですので、ぜひご注目ください。
奈良県立美術館 所蔵名品展「奈良県美から始める展覧会遊覧」
会期:2022年2月5日(土曜日)~3月27日(日曜日)
※会期中展示替えを行います。
【前期】2月5日~2月27日、【後期】3月1日~3月27日
会場:奈良県立美術館
開館時間:9時~17時30分
休館日:月曜日(3月7日、14日、21日は開館)
観覧料:一般 400円、大学・高校生 250円、小・中学生 150円
※65歳以上の方、身体障がい者手帳・療育手帳・精神障がい者福祉手帳をお持ちの方と介助の方1名、外国人観光客(長期滞在者・留学生を含む)と付添の観光ボランティアガイドの方などは無料でご観覧いただけます。
【今後のイベント】
アート・コミュニケーションプログラム「奈良県立美術館の対話型鑑賞会」(※予約制)
開催日:3月20日(日曜日)
時間など:10時~11時30分(中学生以下を対象)、13時30分~15時(高校生以上を対象)
学芸員による展示ガイド
日時:3月19日(土曜日)14時~
※新型コロナウイルスの状況により内容が変更に、また開催が中止となる場合があります。
※ご来館の際は、「うつらない」「うつさない」の予防措置の徹底をお願いします。
交通案内
「奈良県立美術館」(奈良市登大路町10-6)は、近鉄奈良駅から徒歩約5分です。または、JR奈良駅から奈良交通バス「県庁前」下車すぐです。
(リポート・写真 / ナラプラスライター N)
(記事投稿者)
奈良県庁広報広聴課 辻本・林野
電話番号 0742-27-8325